未分類 忘れられた写真 大学時代の友人に、写真が趣味の男がいた。彼の名前を仮に高橋としておこう。高橋はとにかく古い建物や廃墟を撮るのが好きだった。大学のサークル旅行でも、みんなが観光地で写真を撮る中、一人だけひっそりと廃屋に入ってはシャッターを切っていた。ある意味... 2024.12.07 未分類
未分類 人形の腸 実家の物置を整理していたときのことだ。母が古い箱を指さし、「これ、お前が小さい頃に遊んでた人形じゃないか?」と言った。箱の中には埃をかぶった布製の人形が入っていた。顔立ちは簡素で、ボタンの目と糸で刺繍された口がかろうじて表情を作っている。 ... 2024.12.07 未分類
未分類 廃墟の人 大学の頃、仲間内で廃墟巡りが流行った時期がある。無人の工場や廃校、廃ホテル――どの場所も似たように荒れ果て、雑草や瓦礫が侵食しているだけの空間だった。それが奇妙な魅力を持ち、私たちは次の「目的地」を探し求めていた。 ある日、友人のKが面白い... 2024.12.07 未分類
未分類 口を開けて 私は歯医者が苦手だ。痛みや音が嫌というより、ただ何となく気分が悪くなるのだ。だが、放置していた虫歯が耐えきれなくなり、近所の小さな歯科医院に行くことにした。 その医院は古く、子どもの頃に通っていた記憶がある。狭い待合室、飾り気のない受付、独... 2024.12.07 未分類
未分類 隙間 私が今のアパートに引っ越してきたのは、一年ほど前のことだ。家賃が安く、駅からも近いという好条件で、迷わず契約を決めた。最初のうちは快適だったが、住み始めて数ヶ月が経った頃から、部屋のどこかに「隙間」を感じるようになった。 具体的には、夜にな... 2024.12.07 未分類
未分類 虎と猫 私の祖父は、昔から「寅の年は猫を迎えるべきではない」と言っていた。幼い頃の私はその意味がわからず、ただ祖父の迷信のようなものだと聞き流していたが、実家に戻ったある冬の日、祖父がその話をした理由を知ることになる。 その年は寅年だった。久しぶり... 2024.12.07 未分類
未分類 呼んでない 会社の同僚たちと飲みに行った帰り道のことだ。その日は金曜日で、二次会、三次会と盛り上がり、深夜を過ぎてようやく解散となった。私は終電を逃し、仕方なく歩いて自宅まで帰ることにした。 街灯の少ない住宅街を一人で歩いていると、背後から「おーい」と... 2024.12.07 未分類
未分類 怪談 それは、ある村に伝わる不思議な風習についての話だ。 大学の民俗学ゼミで知り合った先輩から、地方のとある集落についての調査を頼まれたのが始まりだった。山間部の小さな村で、古くから「合掌」という行為に特別な意味を持たせてきた場所だという。仏教的... 2024.12.07 未分類
未分類 蛇の腹 大学時代の夏休み、友人たちと山奥の渓谷へキャンプに行ったときのことだ。そこは観光地化されておらず、人の手がほとんど入っていない原生林が広がる静かな場所だった。静かすぎて、ふとした瞬間に背筋がざわつくような空気を感じることもあったが、みんなで... 2024.12.07 未分類
未分類 遅れる通勤電車 僕は毎朝7時半に家を出て、8時ちょうどの電車に乗るのが日課だ。その日は寝坊して、一本遅い電車に乗った。いつもと違うリズムに少し気まずさを感じながら駅のホームに立っていると、電車が滑り込んできた。 電車はがらんとしていた。通勤ラッシュを過ぎた... 2024.12.07 未分類