その日、僕は学校が終わると友達と一緒に公園で遊んでいた。時間が経つのはあっという間で、気づけば夕方になっていた。みんなは「じゃあね」と手を振って、家に帰って行ったけれど、僕はもう少し遊びたかった。
公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げていた。秋の夕方は少し肌寒くて、風が吹くたびに体が震えた。そろそろ僕も帰ろうかと思って、立ち上がろうとしたその時、ふと視界の端に何かが動くのが見えた。
公園の片隅、木の陰に何か白いものが見えた。最初は猫かなと思ったけれど、よく見るとそれは小さな封筒だった。誰かが落としていったのだろうか。僕は興味を引かれて、封筒の方へ近づいた。
封筒は古びていて、少し汚れていた。宛名も何も書かれていない。ただ、封筒の口はきちんと閉じられていた。僕はそれを拾い上げて、中を覗いてみることにした。
中には小さなメモが一枚入っていた。メモには、こう書かれていた。
「この公園の南側にある池の周りで待っています。」
僕は思わず周りを見渡した。でも、誰もいない。池の周りと言っても、この公園に池なんてあっただろうか?何度も来たことがある公園だけど、そんなものは見たことがない。それでも、僕は何となくその池を探してみたくなった。
公園の南側へ歩いていくと、確かにそこには小さな池があった。初めて見るその池は、ひっそりとした雰囲気を漂わせていた。水は黒く澄んでいて、まるで鏡のように空を映している。僕は池の周りを見渡したが、誰の姿も見当たらなかった。
「待ってるって…誰が?」
僕は独り言を呟きながら、池の縁にしゃがみこんだ。その時、足元に何かが触れた。見ると、小さな瓶が落ちていた。瓶はコルクで封がされていて、中には何かが入っているようだ。
「なんだろう?」
僕は瓶を拾い上げ、コルクを外して中を覗いた。中にはまた小さなメモが入っていた。メモを取り出し、広げると、そこにはまた別のメッセージが書かれていた。
「君がここに来るのを待っていた。池の中を覗いてみて。」
僕は不安と興味が入り混じった感情に駆られながら、池の水面をじっと見つめた。何かが水の中で動いたような気がした。次の瞬間、突然、池の中から子供の顔が浮かび上がった。
「わっ!」
驚いて飛び退いたが、その顔はすぐに消えてしまった。幻覚だったのか?心臓がバクバクして、手が震えていた。でも、もう一度よく見てみると、水面にはまたその顔が浮かんできた。今度ははっきりと見えた。僕と同じ年くらいの男の子の顔だ。
「君、誰?」
僕がそう尋ねると、その男の子は笑ったように見えた。口が動いて何かを言おうとしている。しかし、声は聞こえない。ただ、その口の動きは確かに「ここに来て」と言っているように見えた。
僕はもう一度池を見つめたが、次の瞬間には男の子の顔は消えていた。池はただの静かな水面に戻り、風が吹いて水面が波立っているだけだった。
「ここに来て…」
僕は池の周りをもう一度見渡したが、誰もいないし、何も変わった様子はない。あのメモに書かれていたことも、今の出来事も全てが謎のままだ。僕は少し不安になりながらも、その場を離れることにした。
帰り道、公園を出るときにもう一度振り返ったが、そこにはただいつも通りの公園が広がっているだけだった。池のことも、あの封筒のことも、まるで存在しなかったかのようだ。
家に帰り、あの出来事を誰かに話そうかと思ったが、結局何も言えなかった。誰も信じてくれないだろうし、自分でも信じられないような話だ。でも、あの時拾ったメモだけは確かにポケットの中に残っていた。
それから、僕は公園には行かないようにしている。でも、あの池のことを考えると、今でも背筋が寒くなる。そして時々、夢の中であの男の子が「ここに来て」と微笑むのを見て、目が覚める。
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