いない、いない、ばぁ

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その夜、友人の家で飲み会を開いた。大人になってからも仲の良い数人で集まるのは楽しいものだ。夜も更けて話題が尽き始めた頃、誰かがふざけて言い出した。

「いないいないばぁって、さ、何か怖くない? 顔を隠してる間に何かが変わってたらとかさ。」

酔った勢いで盛り上がったその話題は、次第に奇妙な方向へ転がっていった。

「隠してる間に、誰か知らない人がそばにいたらどうする?」

「子どもの頃、これで笑ってる顔を見たら安心したけど、逆にめちゃくちゃ怖い顔だったらトラウマだよな。」

そんな話をしているうちに、いつの間にかみんな酔いも冷めてきたのか、妙に静かになった。気がつけば、友人の家は田舎の一軒家で、周囲は深い闇に包まれている。窓の外には何も見えず、カーテンも閉められていないせいで余計に不気味だ。

「あ、そうだ。試してみる?」
誰かが唐突に言い出した。

「試すって何を?」

「本気でいないいないばぁ。顔を隠して、タイミングをずらしてばぁってやってみようよ。誰かが何かを見たら面白いじゃん。」

「何それ、くだらねえ。」
そう言いながらも、場の雰囲気に流されて全員がやることにした。

電気を消し、真っ暗な部屋の中で、一人ずつ順番に顔を隠して「いないいない」と唱えた後、手を離して「ばぁ」とする。それだけの遊びだったはずだ。

最初の何人かは何も起きず、「ほら何もないじゃん」と笑い合った。だが、五人目の友人がやった時だった。

「いないいない……ばぁ。」

その瞬間、友人が固まった。顔を上げたまま何も言わない。いや、何かを見ているようだが、ただ黙り込んでいる。

「おい、大丈夫か?」
誰かが声をかけると、友人はゆっくりと手を下ろしてこちらを見た。そしてぽつりと言った。

「……今、笑ってるやつ、誰だ?」

「は? 何言ってんだよ、みんな真顔だぞ?」

「違う……そこ……」
友人が指差したのは、窓だった。

確かに外は真っ暗で、何も見えるはずがない。だが、友人の震える指先を辿ると、窓ガラスに何かが映っていた。白い顔。それも、こちらをじっと見つめている。

慌てて電気を点けると、窓の外には何もいない。ただ、窓ガラスには自分たちの姿が映っているだけだ。

「気のせいだろ。酔ってんだよ。」
誰かがそう言ったが、友人の顔は真っ青だった。

その後、飲み会は急にお開きになった。翌朝、全員で「昨日のはただの見間違いだ」と笑い話にして片付けようとした。だが、それから数日後、あの五人目の友人が会社を休み始めた。連絡をしても返事がない。

気になって家を訪ねると、友人は部屋の隅で膝を抱えて座っていた。そして私を見るなり、こんなことを言った。

「……ずっと、笑ってる。あれ、消えないんだよ……『いないいないばぁ』が、まだ終わらない……」

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