全裸の白い人

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今のアパートに引っ越して間もない頃だった。

築50年を超える古い木造住宅。
安さに惹かれて決めたが、古い日本家屋特有の薄暗さは気になっていた。
特に畳の部屋――日中でも、少し暗い。

その日、夜遅くまで仕事をして帰宅した俺は、疲れて布団に潜り込んだ。
畳の感触がひんやりと足に触れる。
その感覚が妙に気持ち悪くて、布団を引き直そうとした瞬間――

畳の上に誰かが寝ているのが見えた。

全裸の人間だ。
真っ白な肌をして、仰向けに寝ている。
布団の端から見えるのは、細長い腕と、胸元。

「……誰だ?」

声をかけたが、そいつは動かない。
まるで、俺の布団のすぐ隣で、畳に染み込むように横たわっている。

怖くなって、急いで布団から飛び出した。
部屋の電気を点ける――だが、誰もいない。

「気のせいか……」

そう思い直して布団に戻ろうとしたが、畳が濡れていた

俺が見たはずの場所――その畳の上に、まるで誰かが汗をかいたような、人型の湿った跡が残っている。

次の日も、そいつはいた。

やはり、畳の上に全裸で寝ている。
前日より、少しこっちに近づいている気がした。

「おい、誰だってんだ!」

今度は声を荒げて、そいつの顔を確かめようとした――
だが、頭の位置がおかしい。

頭が、腹の上に載っている

俺は、そこでもう限界だった。
慌てて外に飛び出し、しばらくコンビニで時間を潰した。

帰宅すると、部屋は静まり返っていた。
だが、畳の上には、人型の跡がくっきりと残っている。

湿っているどころか、畳が変色していた。
俺は恐る恐る近づいてみた。

その跡を見て、全身が凍りついた。

――それは、俺が見た全裸の人間そのものだった。
腕の角度、足の位置、頭の向き――すべて俺が見た通りだ。
だが、そこに跡が残っているということは――
あの白い人間は、消えていないのだ。

今も、畳の中に染み込むようにして潜んでいる

あれから、毎晩のようにあの跡が現れる。
最初は薄い跡だったが、日に日に濃く、畳の色が変わるほどになった。

気づいてしまったんだ。
そいつは――もう俺の下にいる。

畳の下で、全裸のまま、俺が寝るのを待っているのだ。
もしも俺が、深夜にふと目を覚ましたら――
たぶん、また隣にあの白い人間が畳から顔を出しているのだろう。

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