腹から頭

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その夏、友人から奇妙な話を聞いた。

「お前、”腹から頭”って知ってるか?」
そう言われたときは、冗談かと思った。
だが、友人は真剣な表情のまま話を続けた。

「古い工事現場で、作業員が事故に遭ってさ――
頭じゃなくて、腹から先に生えてくるやつがいるんだってさ」

聞いているうちに、胸のあたりが気味悪くなった。
俺たちは建設関係の仕事をしていたから、そういう話には妙なリアリティがある。

「腹から生えるって、どういうことだよ」
俺がそう聞くと、友人は少し間を置いて、静かに言った。

「文字通りさ――腹から頭が出てくるんだ

それ以上は聞きたくなかった。
だが、妙なことに、その日から工事現場で奇妙なことが続いた。

最初に気づいたのは、俺たちが新しく掘った地面の穴だ。

埋め戻したはずの土が、朝になると盛り上がっている。
まるで、何かが地面から這い出してきたみたいに。

「誰かイタズラでもしてるんじゃないか」
そう言ったが、みんな顔を曇らせるばかりだった。

その夜、俺は一人で残業をしていた。
もう誰もいない現場に、重機の音が響くだけだ。
ふと、作業車のライトが暗い地面を照らしたとき――見えた。

地面の中から、何かが”出てきている”。
最初は腕かと思った。
だが、それは違う。

それはだった。

腹が、まるで土の中から抜け出すように――
そしてそのまま、ゆっくりと頭が生えてきた

だが、その頭はおかしい。
目は閉じたまま、口だけがゆっくりと動いている。
耳元で、ぼそぼそと何かを言っているようだった。

「…埋めても…ダメだ…」

俺は恐怖で後ずさりした。
だが、その”頭”は、次々に腹から別の頭が繋がっていることに気づいた。

頭が腹から生え、またその腹から別の頭が生える――
まるで無限に繰り返すように、地面の中でそれがうごめいている。

俺は気がつくと、地面を必死に蹴って逃げていた。

翌朝、現場の責任者が言った。
「埋めるぞ、もう二度と掘り返さないように」

だが、今でも俺は気づいている。
時々、作業をしていると、背後で――
何かが地面から”這い上がろうとしている”気配を感じるんだ。

腹から頭が生えてくるような奇妙な存在が、
まだ、どこかで俺たちを見ている気がする。

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