串刺し

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高校の裏手にある古い倉庫――本来、部外者は入れない場所だが、好奇心で忍び込んだことがあったんだ。
俺と、もう一人……たしか、あいつは名前を呼ばれるのが嫌いだったから、ここでは「S」としておこう。

倉庫の中は埃っぽくて、古い書類や壊れた備品が山積みになっていた。
何かお宝でも見つからないか、冗談半分で漁っていると、ある箱を見つけたんだ。

黒ずんだ木箱。
釘がいくつも打ち込まれていて、異様に重かった。

「これ、開けてみようぜ」
Sが無邪気に言った。

俺は嫌な感じがして、「やめたほうがいい」と言ったんだが、Sは聞く耳を持たなかった。
仕方なく手伝って、二人がかりで釘を引き抜いた。
そして――蓋を開けた。

中に入っていたのは、人形だった。

普通の人形じゃない。
首、胸、手足――全身に無数の串が刺さった、ボロボロの人形だ。

まるで、誰かがその人形を徹底的に痛めつけたかのようだった。
顔は黒く焦げ、服も裂けている。
けれど、妙にリアルな人形で、目のガラス玉が、俺たちを見ているように感じた。

「気持ち悪いな……」
俺がそう言ったときだ。

Sが急に悲鳴を上げて倒れた。

「おい、どうした!?」
駆け寄ると、Sは自分の胸を押さえて、うめいていた。

「何か……刺さった……!」
Sが胸元をまくると、そこに人形と同じような串が一本、皮膚に突き刺さっていたんだ。

「刺さるはずがない。そんなの、ただの偶然だ」
俺はそう思い込もうとした。
けれど――

その日の夜、Sが病院に運ばれたという知らせを聞いた。
原因不明の高熱と、全身に現れた奇妙な刺し傷の跡
医者も、家族も、説明できなかったらしい。

「Sはどうなった?」
友人が身を乗り出してくる。

俺は黙って首を振った。
Sは、あの夜から消息を絶った。

その後、俺は再び倉庫に忍び込み、あの人形を探した。
けれど、もう二度と見つけることはできなかった。
まるで、俺たちがあの箱を開けた瞬間から、存在そのものが消えてしまったかのように。

友人は真剣な顔で俺を見つめていた。
「その人形、何かに使われていたんじゃないか?」

「呪術か? 祈祷か?」
俺は肩をすくめた。

「わからない。ただ……あの串刺しの人形は、いまもどこかにあるんだろうな」
そう言ったとき、不意に窓の外で人形のガラス玉の目が光ったような気がして、俺は思わず目をそらした。

「なあ、串を引き抜いたのは、お前か?」
友人がぽつりと聞いた。

俺は静かに答えた。
「いや――引き抜こうとしていたのは、Sだよ」

「じゃあ、その串はまだ……」

友人の言葉が、宙に溶けた。
俺の胸が、なぜかチクリと痛んだ。

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