落ちる落ちる落ちる落ちる

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あの日、俺たちは山道を歩いていた。
標識には「通行禁止」と書かれていたけど、友人の田口は気にしなかった。
「だいじょぶだいじょぶ、昔から近道だって言われてんだよ」
そう言いながら、彼は俺の前を軽快に歩いていった。

道はだんだん険しくなり、崩れた石や木の枝が足元に散らばっていた。
滑りやすく、危なっかしい。俺は何度も立ち止まって、注意するよう田口に言った。

「おい、もう引き返そうぜ!」
「ここまで来て戻るのか? あと少しだって!」

言い争いをしているうちに、俺の足がぐらりと滑った。
その瞬間、田口が振り返り――そのまま、バランスを崩して崖の向こうに消えた。

「田口!!」
必死に名前を呼びながら崖を覗き込んだが、霧が濃くて何も見えない。
慌てて下山し、警察に連絡した。

捜索隊が組まれたが、田口の姿は見つからなかった。
ただ――彼のリュックサックだけが崖の下に引っかかっていた。

そのリュックには奇妙なものが入っていた。
折れた木の枝や、どこかの山で拾った小石。それに、一枚の写真。

写真には古びた神社と、鳥居のそばに立つ男が写っている。
――田口だ。
けれど、違和感があった。

鳥居の向こうに、もう一人の男が立っている。
田口の背中にぴったりと寄り添って、顔は見えないが、確かに「誰か」がいた。

田口が落ちた崖は、昔から事故が多発していた場所らしい。
山の神の領域だとか、何かを祀っていた場所だとか、いろんな噂がある。

田口が「誰か」に連れて行かれたのか、それとも――
あの日、俺の後ろに立っていた何かを見てしまったのか。

あの写真の中の男が誰なのか、俺には知るすべがない。
気がかりなのは、田口が消えたあの瞬間、霧の向こうから 「怖がるなよ。そっちにいるのは可哀想だ」 と低い声が聞こえたことだ。

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