ある夏の日、町の外れに住む二人の少年が、何か面白いことをしようと考えた。彼らはどこにでもいる普通の小学生で、暑い夏の午後を退屈して過ごしていた。そこで、一人がふと提案したのだ。
「そうだ、山の奥にあるという、あの廃墟を探検しに行こう」
もう一人は目を輝かせた。廃墟探検と聞いて、彼の心は冒険心に火がついた。二人はその場で計画を立て、すぐに出発することに決めた。何の準備もなく、ただの思いつきだったが、少年たちにとってはそれこそが冒険の醍醐味だった。
彼らが目指したのは、町から少し離れた山の中にある古びた屋敷だった。地元の人々はその屋敷を「幽霊屋敷」と呼んでおり、誰も近づこうとはしなかった。その理由は、そこに住んでいた家族が突然姿を消したという噂があるからだ。家族の行方は未だに分からず、屋敷は長い間放置され、今ではすっかり荒れ果てているという。
少年たちはそんな噂話を信じるわけでもなく、ただ面白そうだという一心で山を登り始めた。道中、彼らは笑い合いながら無邪気に進んでいった。太陽が照りつける中、木々の間を縫うように進んでいくと、やがて目的の屋敷が見えてきた。
その屋敷は、確かに廃墟のようだった。壁はひび割れ、窓ガラスはほとんど割れている。屋根も一部が崩れ落ちており、まさに幽霊屋敷と呼ぶにふさわしい風貌だった。
「すごい、まさに探検にぴったりの場所だ!」と、一人が興奮気味に言った。もう一人も「早く中に入ろう!」と無邪気に答えた。
彼らは意気揚々と屋敷の中に足を踏み入れた。中は薄暗く、埃が舞い上がり、ひんやりとした空気が漂っていた。まるで時間が止まったかのような静寂が、二人の耳を覆った。
二人は手分けして屋敷内を探検し始めた。古びた家具や、散らばった書類、錆びついた食器などが、無造作に置かれていた。特に目を引くものはなかったが、それでも彼らは探検を楽しんでいた。
しかし、しばらくして、一人が妙なものを見つけた。廊下の隅に、古びた日記帳が落ちていたのだ。表紙はぼろぼろで、中のページも一部が破れていたが、まだ読むことができる部分が残っていた。
「なんだこれ?」とその日記を拾い上げ、もう一人に見せた。
二人はその場に座り込み、日記を読み始めた。内容は、この屋敷に住んでいた家族の日常を記したものだった。しかし、読み進めるうちに、内容が次第に不穏なものになっていった。家族が何者かに追われているという記述や、夜中に奇妙な音が聞こえるようになったこと、そして最後には「もう逃げられない」という一文で終わっていた。
その瞬間、屋敷の中にかすかな音が響いた。二人は顔を見合わせた。音は屋敷の奥から聞こえてくるようだった。
「何の音だろう…?」と、一人が言ったが、もう一人はすでに立ち上がり、音の方に向かって歩き出していた。
「おい、待てよ!」と、彼も慌てて追いかけた。二人は屋敷の奥へと進んでいった。音は次第に大きくなり、まるで誰かが何かを叩いているような音に変わっていった。
音の源にたどり着いた時、二人は凍りついた。そこには、屋敷の住人と思われる影が、壁に向かって何度も頭を叩きつけているのが見えたのだ。影は、彼らに気づくこともなく、ただひたすらにその動作を繰り返していた。
恐怖に駆られた二人は、無我夢中で屋敷を飛び出した。息が切れるまで走り続け、ようやく町に戻ってくると、二人は何も言わずにその場に座り込んだ。心臓がバクバクと音を立て、足が震えていた。
それ以来、二人はあの屋敷の話を口にすることはなかった。しかし、あの廃墟で見た光景は、今でも彼らの記憶に鮮明に残っている。まるで、あの家族が彼らに何かを訴えかけようとしていたかのように。
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