私は学生時代、サイコロというものに妙な魅力を感じていた。どこにでもある六面体の小さな道具だが、そのシンプルな形状と、転がすたびに現れる数の偶然性が、どこか神秘的な雰囲気を纏っているように思えたのだ。
そんなある日、私は古道具屋で不思議なサイコロを見つけた。木製の小さな箱に入れられ、埃をかぶったそのサイコロは、どこか普通のものとは違う雰囲気を持っていた。店主によると、それは「占い用のサイコロ」だという。昔の人々は、このサイコロを転がして未来を占ったらしい。興味をそそられた私は、すぐにそれを購入した。
家に帰り、そのサイコロを取り出してみると、普通のサイコロとは違い、六つの面には数字ではなく、奇妙な記号が刻まれていた。私はその記号の意味を知らなかったが、それが何か重要なものであるかのような気がしてならなかった。
その夜、私は試しにそのサイコロを転がしてみることにした。何も考えずに転がしただけだったが、サイコロは不思議な静けさを持ってコロコロと転がり、やがて一つの面を上にして止まった。その面には、見慣れない記号が刻まれていた。
「さて、この記号は一体何を意味するのだろう?」
そんなことを考えながら、その夜は眠りについた。次の日、大学に向かう途中、妙な既視感に襲われた。何か、昨日見たサイコロの記号と同じものをどこかで見たような気がしたのだ。しかし、具体的にどこで見たのか思い出せない。
その日一日、私はその記号が頭から離れず、授業中も上の空だった。家に帰ってから再びサイコロを転がすと、また別の記号が出た。これもまた、見覚えのない奇妙な形だったが、どこかで見たような気がしてならなかった。
その夜、私は奇妙な夢を見た。夢の中で私は、暗い森の中を歩いていた。周囲には無数の木々が生い茂り、その間を抜けるように進んでいくと、やがて一つの石碑が現れた。石碑には、あのサイコロに刻まれていた記号と同じものが彫られていた。
目が覚めたとき、私は冷や汗をかいていた。サイコロの記号が、夢の中にまで現れるとは思わなかった。しかも、その夢はどこか現実感があり、まるで本当にその場所に行ってきたかのような感覚が残っていた。
それからというもの、私は毎晩のようにそのサイコロを転がし続けた。出てくる記号は毎回違うが、その度に私は奇妙な夢を見るようになった。そして、夢の中で出会う場所や出来事は、次第に現実の生活とリンクするようになっていった。
ある日、私は気づいてしまった。サイコロの記号が示すのは、未来の出来事そのものなのではないかということを。だが、その未来は決して良いものではなかった。夢の中で見た風景が、現実の中で現れるたびに、私は何か恐ろしいことが起こるのではないかと怯えるようになった。
最終的に私は、そのサイコロを封印することにした。二度と転がさないようにと、深い引き出しの奥にしまい込んだ。しかし、夜になるとどうしてもそのサイコロが気になってしまう。あのサイコロが、私に何を伝えようとしていたのか、今でも分からない。
それでも、私は二度とそのサイコロを転がそうとは思わない。あの小さな六面体に秘められた、何か得体の知れない力を思うと、今でも背筋が寒くなるからだ。
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