まだ若い頃、仕事仲間と忘年会をした時のことです。飲みすぎた私は終電を逃してしまい、仕方なく夜道を一人で歩いて帰ることになりました。酔いのせいでフラフラしていて、足元が定まらない。それでも何とか家へ向かって歩いていると――
「あれ?……おかしいな」
気づいたんです。
靴が片方、やたらと重い。
最初は酔っているせいだろうと思って気にしませんでしたが、次第に足の重さが増していく。まるで靴の中に何かが詰まっているような感触があったんです。
気になって、道端でしゃがみ込んで靴を脱いでみました。
すると――靴の中に、小さな足が入っていたんです。
ただの足じゃありませんよ。
まるで酒瓶でできたような、ガラスの足です。
透明なガラスの足が、まるで靴に居座っているかのように、そこにありました。
私は酔っているせいで「これも幻覚か?」と思いながら、恐る恐るその足をつまんで外に出しました。すると、その足がピョンと跳ねて、地面に立ったんです。
そして、驚いたことに――
そのガラスの足は、ピョコピョコと自分で歩き出した。
「なんだこれ!」と叫びましたが、足は振り向きもせず、夜道をどんどん先へ進んでいく。
私は追いかけました。
酔いも一気に覚めた。
しばらく追いかけていくと、足は、路地裏の小さな居酒屋の前でピタリと止まったんです。
見れば、店の看板には「酒肴 足元」と書かれていました。
興味を惹かれて、私はその店の中を覗いてみた。
そこには……一足の靴を履いた人々が、みんな酒瓶を抱えて飲んでいたんです。
ただ、彼らの足元を見ると、みんな片足がない。
その代わり、空になった酒瓶が代わりの足のように置かれていた。
私が靴を脱いだ時に見つけたガラスの足――あれは、たぶん酔っ払いの足だったんでしょうね。
酒を飲むたびに、足が一本、酒瓶に変わってしまう。
そしてその足は、次の酔っ払いを探しに夜道を歩いていく。
私の靴に入り込んでいたのも、そんな「お酒足」の一つだったんです。
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