お前の代わりに

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小学校の放課後、友人たちと河原で遊んでいたんです。
少し大きめのゴムボールを蹴っていたら、誰かの蹴り損ねたボールが川の中へ転がってしまった。水はそこまで深くなかったし、流れも穏やかだったので、私は迷わずボールを追いかけました。

靴を脱ぎ、ズボンをまくり上げて川に入ったんです。
ボールはすぐ目の前、もう手を伸ばせば届く――そう思った瞬間、底が抜けたように、私は足を取られました。

「うわっ!」
気づいた時には、川底に足がズブズブと沈んでいて、もう抜けなくなっていたんです。どんなに足を動かしても、泥のようなものが絡みついてくる。
どんどん水位が上がり、胸まで浸かってしまった。
友人たちは川岸から叫んでいましたが、怖がって誰も助けに来ない。

その時――
川の中から、誰かが私の腕を掴んだんです。

驚いて振り向くと、すぐ後ろに、人の形をした何かが立っていました。
顔はよく見えなかった。ただ、泥にまみれたような姿で、手首をしっかりと握ってくる。その手は異様に冷たく、まるで川そのものが形を取ったような感触でした。

言葉は何もなく、ただその「何か」は私の腕を引き、ゆっくりと川岸へ向かって歩き始めたんです。

友人たちは後で言いました――
「誰かが助けたと思ったけど、君しか川から上がってこなかった」と。

その後、私はボールを取るのをやめて帰りました。
でも、帰り際、振り返ると川の中に何かが沈んでいくのが見えたんです。
まるで私の代わりに、そこへ帰っていくように。

あの時、何が私を助けてくれたのか……
ひとつ分かるのは、それは人ではなかったということだけです。

それ以来、私はあの川へ行っていません。
行く度に、あの冷たい手が再び私を引き込むような気がしてならないんです。

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