夏休みに入って間もない頃、家の裏手の雑木林で一人遊んでいたんです。都会育ちの人には馴染みがないかもしれませんが、田舎の子供は、裏山がちょっとした遊び場なんですよ。木に登ったり、虫を捕まえたりして過ごすのが日常でした。
その日も、蝉の声が響く中、木の根元を掘り返してカブトムシの幼虫を探していたんです。しばらく夢中になっていると、不意にブーンという低い羽音が聞こえてきた。
――スズメバチだ。
ただの蜂じゃない。スズメバチは本当に危険だってことは、親から耳にタコができるほど言われていました。でも、逃げる間もなく、一匹がすぐそばに飛んできた。
普通なら、そこでじっとして動かないのが正解だったんでしょう。でも、私は驚いて手を振り払った。その瞬間、鋭い痛みが腕を貫いたんです。
「うっ……!」
見れば、腕には針が刺さった跡があって、赤く腫れ上がってきていました。恐怖と痛みで泣きながら家に駆け込んだんですが、母親は開口一番、
「何もしてないのに刺されるわけないでしょう!」
怒られたんですよね。
結局、病院で治療を受けたんですが、あの時の痛みと腫れ方は忘れられません。
……でもね、不思議なことが一つあるんです。
刺された場所に、今でも跡が残っているんですよ。普通、蜂に刺された痕なんて数年もすれば消えるもんでしょう?
けれど、その跡はなぜか、年を取るほどに濃くなっていくんです。
先日、ふとその跡を見た時に気づいたんです――
それが、ただの腫れ跡じゃなくて、何かの文字のように見えるってことに。
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