巨大な

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あれは高校生の頃、確か梅雨の終わり頃でしたね。夕立の後のじめじめとした空気が漂う中、私は部活の帰り道を一人で歩いていました。周囲はすっかり暗くなっていて、街灯の淡い光が濡れた道路に反射していました。

その日は妙に静かでした。いつもなら家路を急ぐ学生や犬の散歩をする人の姿がちらほら見える時間帯なのに、誰一人いませんでした。私は少し不安になりながらも、自分を安心させるように早足で歩きました。

そんな時、後ろから聞こえたんです。大きな靴が地面を叩くような音が。ゴンッ、ゴンッと、どこか重たい響きが背後から迫ってきました。

振り返ると、そこには何もいない。けれども、その音は止むことなく続いていました。私は怖くなり、さらに足を速めました。しかし、その音は私のペースに合わせるように近づいてきます。まるで、私を追いかけているかのようでした。

そして、ふと道の先を見ると、黒い何かが見えました。それは、巨大な人型の影でした。街灯の光を遮るように現れたその影は、どこか異様にゆがんでいました。人間の形はしているのに、明らかに人間ではない。腕は不自然に長く、頭は異様に小さく見えました。

その影は動き始めました。足音を立てながら、私の方に向かって走ってくるんです。いや、「走る」というよりも、地面を飛び跳ねているように見えました。その動きがあまりにも不自然で、私は恐怖で声を出すことすらできませんでした。

一瞬、体が硬直しましたが、反射的に全力で走り出しました。道を曲がり、裏道に入り、何とかその影を振り切ろうと必死でした。しかし、あの重い足音はどこまでもついてきます。振り返る勇気もなく、ただ必死に走り続けました。

気づけば、見覚えのない道に迷い込んでいました。周りは暗闇に包まれ、建物もまばらで、唯一頼りになるのは遠くの自動販売機の明かりだけ。そこまで辿り着けば、と自分に言い聞かせながら走り続けました。

やっとの思いで自販機の前に辿り着き、振り返りました。ですが、そこにはもう何もいなかった。足音も止まり、静寂だけが辺りを包んでいました。

息を整えながらしばらく立ち尽くしていましたが、心のどこかで感じていました。あの黒い影はまだどこかにいる、と。自販機の光の外側、闇の中に溶け込むようにして。

その日、私は家に帰るまで一度も振り返ることはしませんでした。あの影が何だったのか、今でも分かりません。あの足音や異様な走り方、そして感じた恐怖――すべてが夢のようでありながら、現実味を帯びて記憶に残っています。

あの出来事がきっかけで、私は夜道を一人で歩くのを避けるようになりました。あの黒い巨大な人間が、いつまた現れるのかと思うと、今でも背筋が寒くなります。

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