夕方、部活が終わって、一人で帰る道すがらのことだった。ちょうど田んぼの中を抜ける細い道に差し掛かった頃だ。日が暮れかけていて、空が茜色に染まっていた。
いつもなら何も気にせず通り過ぎる道なんだけど、その日は妙に静かで、足元の砂利の音がやけに響いた。ふと、少し先の茂みのあたりで何かが動いた気がして、立ち止まったんだ。
最初は犬か猫かと思った。でも、違った。茂みから見えたのは、人の足だったんだ。裸足で、妙に汚れてて、それがぴくりとも動かない。胸がざわついたけど、目が離せなくて、しばらくじっと見てた。
そしたら、その足がゆっくりと動き出したんだ。いや、正確に言えば、引きずられてた。足が茂みの中にずるずると引っ張られていくのが見えた。まるで、誰かがその奥で引っ張ってるみたいに。
「おい、大丈夫か?」
声を出そうと思ったけど、喉が詰まって声にならなかった。ただ立ち尽くして、茂みを凝視するしかなかった。
そのとき、見えたんだ。茂みの中から、ぼんやりした人影が現れた。何かを握りしめた手が見えて、その先にはさっきの足が繋がってた。小さな子供のような体だったけど、顔は見えなかった。ただ、うつむいたまま、ずるずると何かを引きずり続けていた。
怖くて、すぐに目をそらして駆け出した。後ろを振り返る勇気もなく、ただひたすら走った。家に着いたときには、汗でシャツがびしょ濡れになってた。
結局、あの子供が何だったのか、引きずられていたのが誰だったのかはわからずじまいだ。
ただ、あの日以来、あの道を通るたびに思い出すんだよ。茂みの中からずるずると引きずられていく、あの足を。
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