あれが最初に話題になったのは、ある日、教室でAが見せびらかしていたときだった。透明な糸に吊るされた、黒ずんだ何かの欠片みたいな首飾りだったよな。「これ、願いが叶うらしいよ」なんて言いながら、得意げに見せてたけど、あのときは誰も深く考えなかったと思う。
でも、不思議だったのは、それを見た他の連中が次々と「自分も欲しい」と言い出したことだ。気がつけば、次の日には何人かが似たような首飾りを持ってきてた。しかも、それぞれ微妙に形が違ってて、みんな自分のが一番すごいって言い張るんだよ。あの異様な熱気、今でも思い出すと薄気味悪い。
問題は、その首飾りをつけてるやつらが、妙に変わり始めた頃からだった。授業中にぼーっと窓の外を見つめたり、放課後になっても帰らずに教室の隅で何か囁き合ったり。何を話してるのか聞いてみようとしても、こっちが近づくと急に黙り込むんだよ。お前も、あれ気味が悪かったって言ってただろ?
そうこうしてるうちに、ある日、Bが突然首飾りを投げ捨てたんだ。「これ、もういらない!」って叫びながら。普段おとなしいBがそんな風に怒鳴るのは珍しかったから、みんな驚いた。でも、それ以上に衝撃だったのは、その直後、Bが教室の端に蹲って、泣き始めたことだ。
「何があったんだよ?」って聞いても、Bは何も答えなかった。ただ、涙を流しながら、あの首飾りがあった場所をじっと見つめてたんだ。
それから数日後、首飾りを持ってたやつらが次々と手放し始めた。「別に大したことないから」とか「飽きた」とか言い訳してたけど、明らかにみんな怯えてた。それが何に怯えてたのかは、結局わからなかったけど。
今でも、あれが何だったのか考えることがある。たかが流行りものだったのかもしれない。でも、どうしてあのとき、あんなにみんなが取り憑かれたようになったのか、そして、どうして突然それを捨てたのか。もう何も分らない
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