あれは夏の終わり頃のことだった。僕は友人たちと一緒に、ある小さな漁村へ旅行に行った。海岸線が美しい場所で、観光客も少なく、静かな時間を過ごすには最適だったんだ。
初日の夜、僕たちは海岸沿いを歩いてみることにした。月明かりが波打ち際を照らし、穏やかな波の音が耳に心地よかった。歩きながら僕たちは笑ったり、冗談を言い合ったりして、夜の海を楽しんでいた。
すると、ふと、僕たちの前方に一人の女性が立っているのが見えた。白いワンピースを着た彼女は、じっと海を見つめていた。彼女の存在に気づいた僕たちは、少し驚いたものの、特に気にせず近づいていった。
でも、彼女に近づくにつれて、何かが変だった。彼女は全く動かず、まるで海と一体化しているかのような静けさを纏っていたんだ。友人の一人が「こんばんは」と声をかけたけど、彼女は反応しなかった。ただ、じっと海を見つめたままだった。
その時、背中に寒気が走った。僕は直感的に、この女性に近づいてはいけないと感じたんだ。友人たちも同じように感じたのか、急に話が途切れてしまった。気まずい沈黙が流れる中、僕たちは無言でその場を離れ、再び海岸線を歩き始めた。
しばらく歩いてから、僕たちは再びその女性のことを話し始めた。「何だったんだろうな、あの人」「なんだか不気味だったよな」なんて話していたら、突然、後ろから足音が聞こえてきたんだ。
振り返ると、さっきの白いワンピースの女性が僕たちを追いかけてきていた。彼女は相変わらず無表情で、ただゆっくりとした足取りでこちらに向かってきている。
「やばい、逃げよう!」
誰かがそう叫んで、僕たちは一斉に走り出した。走っても走っても、その足音はすぐ後ろから聞こえてきて、振り返ると、彼女は一定の距離を保ちながらついてきていた。
やがて、僕たちは村の外れまで逃げ込んだ。振り返ると、もう彼女の姿はなかった。息を切らしながらも、僕たちは安堵し、しばらくその場に座り込んで休んだ。
その夜、宿に戻ってから、地元の人にその話をすると、驚いた顔をされた。「その海岸線には、昔から白い服を着た女性が現れるって言われてるんだよ。彼女は溺れて亡くなった女性の霊だってね。逃げられて良かったな…」
その言葉に、僕たちは震えた。もう二度と、あの海岸線には近づかないと心に誓ったんだ。
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