あの家のことを思い出すと、今でも言葉では説明しきれない不気味さが胸に湧き上がります。あれは、僕たちがまだ中学生の頃、地元で「コケシの家」と噂されていた廃屋を訪れた時の話です。
その家は、町から少し離れた山沿いにありました。ひっそりと佇むその姿は、まるで人を寄せ付けないような威圧感があり、近づくと自然と足音を忍ばせてしまうほどでした。窓ガラスは粉々に割れており、庭には雑草が腰の高さまで伸び、長い間放置されていたのが一目でわかりました。
僕たちは肝試しの一環でその家に入りました。最初は普通の廃屋に見えました。ホコリだらけの床、崩れかけた天井、そして散乱する古い家具。ただ、奥の和室に足を踏み入れた時、空気が一変しました。
そこには、異様に大きなコケシが置かれていたんです。高さは僕たちの背丈を優に超えるほどで、顔には奇妙に歪んだ笑みが描かれていました。その大きさもさることながら、その場に不自然に「ぽつん」と置かれている様子が、どうしようもない違和感を感じさせました。周りには家具も何もなく、まるでその部屋がそのコケシだけのためにあるようでした。
じっと見ていると、その顔がこちらを見返しているような気がしました。友人の一人が「これ、本当に動かないよな?」と冗談を言った瞬間、廊下から何かが「パキッ」と音を立てました。振り返っても何もいませんでしたが、その音で全員の緊張が限界に達しました。
慌てて家を出ようとした時、なぜか部屋を出る一歩手前で振り返ってしまいました。その瞬間、背筋が凍りました。さっき見ていた時より、コケシの顔がほんの少し、こちらに向いている気がしたんです。もちろん錯覚だと思います。けれど、その場ではその考えすら浮かばないほど、ただただ恐ろしかった。
外に出て振り返ると、家の窓がまるで顔のように見えました。どことなく、あのコケシの表情に似ている気がして、二度と近づかないと誓いました。
その後、あの家について調べても、特に目立った噂や事件の記録は見つかりませんでした。ただ、一つだけ気になることがありました。地元の年配の人に「あの家、昔何かありましたか?」と聞くと、少し間を置いてから「知らんなぁ知らんなぁ」とはぐらかされました。
あの巨大なコケシは、誰が何のために置いたのか、今でも謎のままです。
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