白い夢と消えた数日間

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あの頃、僕は毎晩のように同じ夢を見ていた。

夢の中で僕は、いつも「白い部屋」にいるんだ。四方が白く塗り潰され、床も天井もどこまでも白い。ただの空間。だけど、その真ん中には一本の扉が立っていた。古びた木の扉で、見覚えはない。

——誰かが、向こう側で僕を呼んでいる。

呼び声はしない。ただ「来い」と言われているような気がするんだ。最初は何もしないまま扉を見つめるだけで夢から覚めていた。でも、次第にその夢は長くなり、僕は扉の前まで歩くようになった。ある時、扉に手をかけた——その瞬間に目が覚める。

そんな日が何度も続いた。そして、ある夜。

僕は扉を開けてしまった。

そこから先の記憶が曖昧だ。目が覚めた時、僕は見知らぬ山道に立っていたんだ。昼か夜かもわからない灰色の空の下、足元には湿った土が広がっていた。寒さがじわじわと体にしみるけれど、不思議と怖くはなかった。ただ、自分がどこにいるのか、どうやってここに来たのかがわからないまま、僕はふらふらと歩き続けた。

君たちが僕を見つけたのは、それから数日後のことだったらしい。近くの廃工場の隅で、泥だらけになって倒れていたと聞いた。病院のベッドで目を覚ました時、僕はまるで何事もなかったかのように「夢」の続きを思い出していた。

白い部屋、真ん中の扉、そして扉の向こうに広がっていた何もない空間——そこで、僕は確かに誰かとすれ違ったんだ。それが誰だったのかは、思い出せない。でも、その何者かは僕に背を向けて遠くへ歩き去り、振り返らなかった。

「なんでこんなことになった?」

と君は言ったけれど、僕はただ首を振るしかなかった。あれが夢だったのか、それとも現実のどこかと繋がっていたのか——答えは出ないまま、今も時々、あの「白い部屋」のことを思い出す。

あれ以来、僕は二度とその夢を見なくなった。ただ、夜に扉の「音」だけが聞こえることがある。遠くから、ゆっくりと軋みながら開く音だ。

それが幻聴か何かはわからない。だけど、僕は決して耳を澄まさないようにしているんだ。扉の向こうに、もう一度呼ばれる気がしてならないから。

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