友達の亡霊

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最近、仕事が忙しくて毎晩遅くまでオフィスに残っていた。そんなある日、深夜に会社を出た後、いつもと違う道を通って帰ろうと思ったんだ。いつもは大通りを使っているんだけど、静かな裏通りを歩くのもいいかなと思ってさ。

その道は、古い住宅街の中を抜ける細い路地で、昼間でもあまり人通りがない場所だった。夜になるとさらに静かで、街灯も少なく、薄暗い雰囲気が漂っていた。でも、その日は何となくその道が魅力的に思えて、迷わずそちらに足を向けたんだ。

路地に入ると、すぐに周囲の静けさが耳に響いてきた。自分の足音だけがカツカツと響いていて、まるでその音に包み込まれるような感じだった。そんな中、ふと、遠くから何か音が聞こえたんだ。最初はかすかなざわめきかと思ったけど、よく耳を澄ませると、それは誰かの足音だった。

振り返ると、薄暗がりの中に人影が見えた。その影はゆっくりとこちらに近づいてきているのがわかった。特に急いでいるわけでもなく、ただじっくりとした足取りで、僕の後をついてくる感じだった。

「気にしないでおこう」と思って、そのまま歩き続けたけど、その足音はますます大きくなり、すぐ背後まで迫ってきているように感じた。思わず振り向いてみたんだけど、その影は見当たらなかった。ただ、路地は静まり返っていて、さっきの足音も消えていた。

「気のせいかな」と思って歩き出した瞬間、またその足音が聞こえてきた。今度は確実にすぐ後ろからだ。振り向くと、そこには確かに人影があったんだ。それも、見覚えのある姿だった。

それは、昔の友人だった。大学時代に仲が良かったけど、数年前に突然連絡が途絶えてしまった彼だ。なぜ彼がここにいるのか不思議でならなかった。

「お前、こんなところで何してるんだ?」と声をかけようとしたんだけど、何かが引っかかって、言葉が出なかった。彼は無表情で、ただこちらをじっと見つめていたんだ。

その視線に耐えられず、僕は無言で歩き出した。彼が何を考えているのかもわからず、ただその場から離れたい一心だった。でも、彼の足音は僕の後をついてきた。まるで、僕の動きを真似するかのように、同じリズムで足音が響く。

不安になって振り返ると、彼の姿はすぐそこにあった。そして彼は、ポツリと一言つぶやいた。

「覚えてるか?」

その言葉に、何かを思い出しそうになった。でも、何を思い出さなきゃいけないのか、まったくわからなかった。胸がざわついて、恐怖がじわじわと広がっていく。

気がつくと、僕は全力で走っていた。後ろを振り返ることもせず、ただ前に向かって必死に走った。ようやく住宅街を抜けて大通りに出たとき、足音はもう聞こえなくなっていた。あたりを見回しても、彼の姿はどこにもなかった。

家に帰ってからも、あの出来事が頭から離れなかった。結局、何日も考え続けたけど、彼が何を言いたかったのか、何を思い出すべきだったのか、今もわからない。ただ、あの日を境に、僕は決してその裏通りを通ることはなくなった。

そして、最近になってわかったことがあるんだ。あの友人は、僕が彼と最後に会った日に亡くなっていたらしい。事故で突然命を落としたと聞かされたとき、背筋が凍った。あの夜、僕が見たのは、彼の亡霊だったのかもしれない。

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