夜中に踊る子供

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あの出来事が始まったのは、小学校高学年の頃でした。当時、僕の家は古い日本家屋で、寝室には畳が敷かれ、壁には障子がはめ込まれていました。家は広かったものの、妙に静かで、夜になるとその静けさがかえって不気味に感じることがありました。

ある夜、深夜にふと目が覚めたのです。特に理由があったわけではありません。ただ、奇妙な気配を感じて目が開いたという感じでした。

部屋の中は暗く、月明かりが障子越しに淡く差し込んでいました。横になったままその光を眺めていると、不意にその光の中に小さな影が動いたのです。

最初は、夢の続きかと思いました。でも、しばらくじっと見ていると、それは紛れもなく影ではなく「誰か」が障子の向こうで踊っているようでした。小さな人影がリズムに合わせるように、何か奇妙な動きを繰り返していたのです。

僕は最初、その姿に声を出せませんでした。視線を逸らせず、ただじっと見つめていました。踊っているのは子供のようで、その動きは不思議なリズムを刻んでいました。けれど、その踊りには楽しさや無邪気さのようなものはなく、どこか機械的で、気味の悪い不気味さを感じさせるものでした。

怖くなり、布団を頭までかぶり目を閉じました。そのうち足音のようなかすかな音が聞こえてきました。障子の向こうだけではなく、部屋の中にまで入り込んでいるかのような気がしました。でも、布団の中から確認する勇気はありませんでした。

次の朝、恐る恐る起きてみると、何事もなかったかのように部屋は静まり返っていました。けれど、畳の上にうっすらと奇妙な足跡のような跡が残っていたのです。それは子供の小さな足の形をしていましたが、畳を深く踏みつけたような跡で、どうやってできたのかまるで分かりませんでした。

その夜から、僕は毎晩のようにその踊る子供に悩まされました。障子越しの踊りだけでなく、時には布団のすぐそばまで来て、軽い足音を立てることもありました。その度に布団をかぶり、震えながら朝が来るのを待つしかありませんでした。

ある日、祖母にそのことを打ち明けると、祖母はしばらく考え込んでからこう言いました。

「昔、この家には子供がたくさん住んでいた。でも、ある年に流行り病が出て、何人かが亡くなったんだよ。もしかしたら、その子供たちがまだ遊びたいのかもしれないね」

その話を聞いた夜、僕はとうとう障子の向こうに向かって声をかけました。

「どうして踊ってるの? 何がしたいの?」

返事はありませんでした。ただ、その夜を境に踊る子供は現れなくなりました。

今でも時折、ふと夜中に目が覚めると、あの障子越しの影を思い出します。踊る子供は何を伝えたかったのか、そして、なぜ僕に見えたのか。それを知る術はありませんが、あの奇妙な踊りが今でも脳裏に焼き付いています。

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