あの祭

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僕たちは、ふとしたきっかけでその山奥の村に迷い込んだのです。夕方になり、辺りが薄暗くなり始めた頃、古びた木の看板に「祭」と書かれた矢印があるのを見つけました。どこに続くのか分からないその道を、何となく興味本位で進んでいきました。

山道を抜けると、ひっそりとした集落が現れました。家々の明かりが灯り、提灯が吊るされた広場には、すでに人々が集まっていました。皆、無表情で白い着物を身にまとい、ゆっくりとした動きで広場の中央に並べられた奇妙な形の柱の周りを歩いていました。

「なんだか不気味だな……」とあなたが言いました。その時、僕も同じことを考えていました。広場に漂う空気は、どこか異様で冷たく、祭りの楽しげな雰囲気とは程遠いものでした。

しばらくその様子を遠目から見ていると、一人の村人が僕たちに気づき、こちらに歩み寄ってきました。年老いた男性で、顔に深いしわが刻まれていました。

「よそ者か。まあ、せっかくだから見ていくといい。この祭りは特別だからな」

その言葉に何か背筋の凍るものを感じましたが、断ることもできず、僕たちは仕方なくその場に留まりました。広場の中央には、大きな木柱が立っていて、その表面には何か古い文字が彫られていました。柱の周りには藁で編まれたような人形がいくつも吊るされており、風に揺れるたびに小さな音を立てていました。

祭りが進むにつれ、広場の様子がさらに異様なものになっていきました。村人たちは次第に歌のような、呪文のようなものを口ずさみ始め、その声が広場全体に響き渡りました。その音が奇妙に耳に残り、何とも言えない不安感を煽りました。

やがて、一人の村人が柱に近づき、手にしたものを掲げました。それは――血のように赤い液体で汚れた刃物でした。僕たちは思わず目をそらしましたが、目をそらした瞬間、背後で小さな声が聞こえました。

「……帰れないよ」

振り返ると、白い着物を着た子どもがこちらをじっと見ていました。その顔はどこか影のようにぼやけ、瞳だけが妙に暗い光を帯びていました。僕はその瞬間、ここにいてはいけないという確信を持ちました。

「行こう!」あなたが低い声で言い、僕たちは静かにその場を離れることにしました。振り返ることなく足早に村を出ようとする中、村の方から声や音が追いかけてくるように響いていました。

山道を抜けて車に戻った時、僕たちはようやく息をつくことができました。しかし、ふと振り返ると、あの村への道がどこにあったのか、どうしても思い出せませんでした。あの看板も、山道も、すべて消えてしまったかのように見当たらなかったのです。

それから数日間、僕たちは無言のうちに「あの祭り」について話すことを避けていました。けれど、ふとした瞬間に思い出すのです――あの柱、あの歌、そして、最後に見たあの子どもの目。祭りは終わったのか、それともまだ続いているのか――それは僕たちには分からないままです。

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