七色のマネキン

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あの日は、三人で何となく集まって、特に目的もなく町を歩いていました。季節は夏の終わり、夕方の陽が傾き始め、街灯がぼんやりと点灯し始めた頃でした。僕たちは商店街を抜け、少し古びた住宅街へ足を踏み入れました。そこは子どもの頃によく遊んだ場所でしたが、久しぶりに訪れると、静かすぎて少し薄気味悪い雰囲気がありました。

歩いていると、一人が「あれ、何だ?」と指をさしました。細い路地の奥、空き家の玄関先に、それはありました。

七色に光るマネキン。

最初は単なる錯覚かと思いました。夕焼けの光がガラスに反射しているだけかもしれない。でも、近づくにつれて、それがただの光ではなく、確かにマネキンそのものが七色に輝いていることに気づきました。表面はツルツルしていて、普通の服を着たマネキンのはずなのに、まるで内部から虹色の光を放っているようでした。

「これ…なんだろう?」

一人が恐る恐る言いました。僕たちは言葉も出せず、その場に立ち尽くしていました。マネキンは、ただ静かに立っているだけでしたが、どこか人間らしい気配を感じさせました。いや、正確には「こちらを見ている」とでも言えばいいのでしょうか。

その時、マネキンがわずかに動いたのです。

腕が軽く上下しただけでしたが、それを見た瞬間、僕たちは全員背筋が凍りつきました。普通のマネキンがそんなことをするはずがありません。まるで「自分の存在を認識してほしい」と言わんばかりの仕草に思えました。

「行こう!」と誰かが叫び、僕たちは慌ててその場を離れました。走って、走って、気がつくと大通りまで戻ってきていました。息を整えながら振り返ると、七色のマネキンはどこにも見当たりません。路地に戻って確かめる勇気もありませんでした。

後日、誰かがその空き家について調べたところ、そこにはかつて洋服店があり、店主がマネキンをコレクションしていたそうです。ただ、火事で店が焼け、その際にマネキンもほとんどが焼失してしまったとのこと。

「七色に光るマネキン」についての話は、それ以上何も分かりませんでした。でも、僕たちは確かに見たのです。あの虹色の光をまとった異様な存在を。

それが焼け残ったマネキンの一つなのか。あの日以来、誰かと一緒に町を歩いていても、ふと曲がり角の先に七色の光が見えるのではないかという不安がよぎるのです。

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