屋根裏の手

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僕が小学生だった頃、家の屋根裏には絶対に近づかないようにと両親から言われていました。特に、古びた天井収納の扉には鍵が掛かっていて、「開けてはいけない場所」として家族の暗黙の了解になっていました。

けれど、小学生というのは不思議なもので、「いけない」と言われるとますます興味が湧くものです。ある日、僕は両親が出かけている隙に、その鍵が掛かっていないことに気づいてしまいました。心臓が高鳴るのを感じながら、意を決して扉を開けると、そこには薄暗い小さな空間が広がっていました。埃っぽい匂いが鼻をつき、薄い光の中で古い木材の梁やダンボールがぼんやりと見えました。

僕はその時、「上に何かある」という漠然とした予感がして、踏み台を持ってきて天井収納を覗き込みました。暗くてよく見えなかったので、懐中電灯を持ってきて中を照らすと、奥の方に何かが積み重なっているのが見えました。それは布に包まれた箱や古びた紙袋のようでした。

「宝物でもあるのかな?」と思った僕は、少しだけ中に手を伸ばしてみました。手が梁に触れると、その瞬間――。

何かが僕の腕を掴んだんです。

まるで冷たい湿った泥に腕を突っ込んだかのような感触でした。それが明確に「手」だと分かるまでには数秒かかりましたが、指の力がじわじわと強まり、僕の腕を引っ張り込もうとする感覚が伝わってきました。

僕は悲鳴を上げて懸命に腕を引き戻そうとしましたが、向こうの力はどんどん強くなり、僕の体は踏み台からずるずると引き上げられそうになりました。「やめろ!」と叫びながらも力は及ばず、まるで天井の中に飲み込まれてしまうような恐怖がありました。

その時、ふいに後ろから大きな音がしました。振り返ると、閉じていたはずの居間のドアが勢いよく開き、家の風鈴が鳴り響いていました。その音に驚いたのか、掴んでいた「手」の力が急に弱まり、僕は一気に腕を引き戻しました。後ろに倒れ込むように落ちると、天井の中は元の静けさに戻り、そこにはただ暗闇が広がっているだけでした。

後日、両親にそのことを話しましたが、僕の話を本気にしてくれた様子はありませんでした。ただ、「絶対に天井収納には近づくな」と、これまで以上に厳しく言われました。それから僕は、あの屋根裏に何があったのか、そしてあの「手」が誰かのものだったのか、それとも何かの影だったのか、知ることはありませんでした。

けれど、今でも時々、夜に眠ろうとすると腕にあの冷たく湿った感触が蘇ります。屋根裏に引きずり込まれていたら、僕はどうなっていたのでしょうか――今となっては、それを確かめる術はありません。

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