夏の夕暮れ、あの赤く染まった町の光景を私は忘れることができません。
その日は特に暑く、空には入道雲が堂々と立ち上がっていました。夕方になり、暑さが少し和らぐと、私は気分転換に町を散歩しようと思い立ちました。普段はよく通る道を選んだはずでしたが、その日はなぜか町の外れにある古い商店街のほうへ足が向きました。
その商店街は、私が子供の頃には賑わっていた場所でしたが、今ではシャッターが降りた店ばかりで、人影もほとんど見かけなくなっていました。歩いていると、遠くから子供の笑い声が聞こえてきたんです。誰かが遊んでいるのかと思って振り返ると、町全体が赤い光に包まれていることに気づきました。
夕日が沈む時間でもないのに、空も建物も、足元の舗装された道路までもが赤い膜をかけたように染まっていました。それは自然の夕焼けの赤さとは異なり、どこか不気味で、まるで血のような色でした。そして、先ほど聞こえた子供たちの笑い声は、次第に耳障りなほど大きくなり、まるで町全体を満たすように響いていました。
奇妙な気配に圧倒されて立ち尽くしていると、商店街の奥にある広場で何かが動いているのを見つけました。そこにいたのは、真っ赤な浴衣を着た人々の集団でした。大人も子供も混じっていて、何かを囲むようにして踊っているようでした。私はなぜかその場に引き寄せられるように近づきました。
そして、彼らの輪の中心に何があるのかを見た瞬間、足が凍りつきました。そこには、赤黒い炎が揺らめくようにして立ち上り、その中に人の形をした何かが見えたのです。その人型は、明らかに普通の人間ではなく、体がどろどろと溶けているようでした。それでも、彼らは狂ったように笑いながら踊り続けていました。
私は恐怖でその場を離れようとしましたが、足が動かず、視線も外せませんでした。その時、どこからか低い声が響き渡りました。
「帰らなくてもいいよ」
その言葉を聞いた瞬間、背後から誰かが私の肩を強く掴みました。振り返ると、誰もいない。ただ、その瞬間に足の自由が戻り、私は一気に走り出しました。
気づけば、自分の家の近くまで戻っていました。振り返ると、赤い光に染まった町はどこにもなく、商店街はただの廃れた街並みに戻っていました。あの時見た光景が夢だったのか現実だったのか、今でもわかりません。ただ、それ以降、その商店街には二度と足を踏み入れることはありませんでした。
時々、あの日の赤い光が瞼の裏に浮かびます。そして、あの笑い声と低い声が耳元で響くような気がするのです。それが何を意味するのか、私には知る術がありません。
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