単独

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大学時代、私たちはいつも数人で行動していました。個々が異なる性格で、それが面白くもあり、まとまりとしても奇妙な雰囲気を持っていました。その時、誰もが「一人では行動しない」という暗黙のルールを守っていたのです。理由を明確にすることはありませんでしたが、それが何となく私たちの中では「安心」を生む基盤だったのかもしれません。

そんなある日、いつものメンバーでキャンパス裏の山道を散策することになりました。実はその山道、ちょっとした噂があったんです。「一人で歩くと後ろから誰かがついてくる」とか、「道の途中に無いはずの小屋が現れる」とか。まあ、若気の至りというか、そんな噂話に興味を引かれていたんですね。

夕方近くに出発し、木々の間を歩きながらくだらない話をしていたんですが、いつの間にか道が二手に分かれている場所に差し掛かりました。一人が「こっちに行ってみよう」と言い、他の人もそれに続こうとした瞬間、リーダー格の友人が「こっちは危ない気がする」と真剣な顔で止めたんです。いつも冗談ばかりの彼がそんな真剣な顔をするなんて滅多にないことで、みんなも一瞬戸惑いました。

結局、別の道を選び進むことになったんですが、その途中で私たちは何とも言えない寒気を感じました。風が冷たいという感覚ではなく、体の内側から染み込んでくるような、説明しがたい冷たさです。そして、それと同時に何かが足りない気がしたんです。歩いている人数に違和感があったんです。

「全員いるか?」リーダー格の友人が振り返りながら確認しました。その場で数を数えると、私たちは確かに五人いるはずなのに、六人目がいました。一番後ろを歩いていたその人物、よく見ると服装がどこか古くさい感じで、顔がほとんど見えない。私は最初、それが冗談か何かだと思い「おい、誰だよこれ」と笑ってみせましたが、誰も何も言わず、空気が凍り付くような沈黙が続きました。

その沈黙に耐えきれず、リーダー格の友人が「急ぐぞ」と言い、私たちは駆け足でその場を離れました。振り返る勇気もありませんでした。数分走り続けて、人気のある道に戻ると、あの奇妙な六人目の姿はどこにもありませんでした。

その後、誰もその件について多くを語りませんでした。ただ、大学を卒業してからそのメンバーと飲んだ時、リーダー格の友人がふと言ったんです。「あの時、もしあの分かれ道を選んでいたら、きっと俺たち今ここにはいないだろうな。」それを聞いてみんな苦笑しましたが、誰も反論しませんでした。

それが私の大学時代、最も忘れられない体験です。そしてその日以来、私たちはさらに一層、単独行動を避けるようになったのです。

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