逆さづり

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俺が住んでいるのは、ごく普通の住宅街だ。静かで平和な場所で、特に何も起こらない毎日が続いている。だが、あの日のことを思い出すと、今でも背筋が寒くなる。

ある晩、夜遅くまで仕事をしていた俺は、家に帰る途中で奇妙な光景に出くわした。近所の通りに、何かがぶら下がっているのが見えたんだ。街灯の下で、何かがゆらゆらと揺れている。最初は木の枝に引っかかったビニール袋か何かだと思った。

だが、近づいてみると、それはビニール袋なんかじゃなかった。人間だったんだ。逆さづりにされた男が、足首を縄で縛られて、街灯から吊り下げられていたんだよ。しかも、その顔が俺をじっと見つめていた。

俺は恐怖で動けなくなった。男の目は生気を失っていて、その口が微かに動いているように見えた。何かを言おうとしているのかもしれない。俺は逃げ出したい衝動を必死に抑えて、その男に近づいた。

「助けが必要ですか?」と声をかけたが、返事はなかった。ただ、男の顔はそのまま俺を見つめ続けていた。急いで警察に通報しようとスマホを取り出したが、何度かけても電波が届かない。

その時、男が突然笑い始めたんだ。静かな笑い声が、住宅街に響き渡った。俺は心臓が止まりそうになったが、次の瞬間、男の体が突然消えた。まるで幻だったかのように、そこには何もなくなっていた。

驚いてあたりを見回したが、街灯の下には何もなかった。ただ、冷たい風が吹いているだけだった。家に帰った後も、その笑い声が耳にこびりついて、なかなか寝付けなかった。

次の日、あの通りに行ってみたが、特に異常はなかった。近所の誰に聞いても、そんな光景を見た人はいないという。あれが何だったのか、今でもわからない。だが、時折あの通りを通ると、今でも誰かが逆さづりにされているような錯覚を覚えるんだ。

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