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私の通っていた小学校は、戦前からある古い校舎で、木造の廊下は歩くたびにきしむ音がしました。特に音楽室と理科室がある特別棟は、不気味な雰囲気があり、生徒の間でも「夜にあそこに行くと幽霊が出る」という噂が絶えませんでした。

その日、授業が終わった後、私は忘れ物を取りに教室へ戻りました。校舎の中はひっそりとしていて、廊下に自分の足音だけが響きました。忘れ物を取った帰り道、ふと耳に妙な音が聞こえたんです。かすかな、でも確かに聞こえる音でした。

「……ポン……ポン……ポン……」

リズムのある音で、まるで遠くで誰かがバスケットボールを弾いているような音でした。けれど、奇妙なことに、音の方向が特別棟の方から聞こえてくるんです。あそこは放課後には使われないはずでした。怖いもの見たさと好奇心が勝って、私は音の方へ向かいました。

特別棟に着くと、音楽室の前で音が止まりました。扉は少しだけ開いていて、中が薄暗く見えました。誰かが中にいるのかと思い、私は「誰かいるの?」と声をかけました。しかし返事はありません。それでも扉の隙間から覗くと、何もないはずの音楽室の中央に、小さな赤いボールがポツンと転がっていたんです。

そのボールが、少しずつ動き始めました。まるで誰かが手で弾いているように、ポン……ポン……と音を立てながら、私の方へ向かってくるんです。心臓がドクドクと鳴り、体が硬直しました。でも、目をそらすことができず、そのまま立ち尽くしていました。

ボールが扉の近くまで来た時、突然、「誰か」の足音が廊下から響きました。振り返ると、そこには誰もいません。けれど、廊下の先から、今度は子どもたちの笑い声のようなものが聞こえ始めました。

その瞬間、私は恐怖に駆られ、何も考えずに教室へ戻り、ランドセルを掴むとそのまま家まで全力で走りました。次の日、そのことを先生に話しましたが、「誰も特別棟には入っていない」と言われました。

今でも思います。あのボールを転がしていたのは、いったい誰だったのか。そして、もし私がそのまま立ち尽くしていたら、何が起こっていたのか……。あれ以来、特別棟には近づくのが怖くなってしまいました。

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