あれは夏の夕暮れ、私たちが林の奥に迷い込んだ時でしたね。木々の隙間から漏れる夕日の光が、ぼんやりとした赤い模様を地面に描いていました。足元には枯れ葉と苔が敷き詰められていて、少し湿った匂いが漂っていたのを覚えています。
何か変だと思ったのは、突然風が止まった時でした。さっきまで聞こえていた蝉の声や鳥のさえずりが、まるで誰かがスイッチを切ったように静まり返ったのです。そして、その時でした。目の前に、不自然なものが転がっているのを見つけたのは。
それは……人形のようでした。身長は、せいぜい30センチほどだったでしょうか。けれども、それはただの人形ではなかった。肌のように見えた表面は土気色で、何か乾いた泥がひび割れているような質感でした。体は細く、小さな手足が木の枝のように伸びていました。そして顔……その顔は、何か怒りとも苦しみともつかない表情を浮かべていました。目を閉じたままで、けれどもその口は微かに開いていました。
最初、私はそれが捨てられた玩具だと思いました。でも、近づくにつれ、妙な違和感が胸に広がりました。玩具ならば、こんなにも生々しい質感や匂いがするはずがない。近寄ると、腐敗したような、けれどもどこか土臭い匂いが鼻をつきました。
「何だこれ……」と友人が呟きました。声が妙に震えていたのを覚えています。私は手を伸ばしかけましたが、途中で止まりました。触れてはいけない、そう思わせる何かがあったのです。
周囲を見渡しましたが、そこには何もありませんでした。ただ木々の静けさが広がっているだけ。けれども、その「こびと」のようなものがそこにいることで、その場全体が異質な空間になっているような気がしました。まるで、その存在が周囲の空気をねじ曲げているような。
結局、私たちは何もせず、その場を離れました。怖くて後ろを振り返ることもできませんでした。その後、あの林には二度と行っていません。
思うんです。あれは、本当に「死んでいた」のでしょうか。それとも、ただ動かなくなっていた「何か」だったのか。そして、もし私たちがその場にもっと留まっていたら……あの「こびと」が何を見せてくれたのか、考えるだけで背筋が冷たくなります。
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