巨大な赤子

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それは、数年前の梅雨の時期だった。朝から強い雨が降り続いていて、どこにも行けないから、一日中家で過ごしていたんだ。でも、夕方近くになって、どうしても買い物をしなければならないことを思い出して、仕方なく外に出た。

傘を差して近所のスーパーに向かう途中、ふと気づいたんだ。道路脇にある小さな公園が、いつもとは違う雰囲気を醸し出している。雨で地面が水浸しになり、遊具も薄暗い空の下で寂しげに見える。でも、それだけじゃなかった。

公園の中央、雨水が溜まってできた大きな水たまりの中に、何かがいるのが見えたんだ。

最初は、犬か猫が雨宿りしているのかと思った。でも、近づくにつれて、その大きさが異常だと気づいた。水たまりの中にいるそれは、赤ん坊のような形をしていた。でも、普通の赤ん坊ではない。体の大きさが普通の大人よりもずっと大きくて、肌は真っ白。雨水に濡れて光沢があり、どこかゴムのような質感に見えた。

顔も見えた。目は細く閉じられていて、鼻は小さく、口だけが妙に大きかった。その口は微かに開いていて、雨を飲み込んでいるように見えた。

私はその場に立ち尽くした。足が動かない。目の前の光景が現実なのか、それとも疲れて幻覚でも見ているのか、判断がつかなかった。でも、それがゆっくりと動き始めたとき、現実なんだと思い知らされた。

巨大な赤子は、ゆっくりと手を上げた。その手も赤子らしいぷっくりとした形をしていたけれど、その指の先には爪が生えていなかった。手が雨空に向かって伸びると、何かをつかもうとしているようだった。そして、その口から「ウー」という低い音が漏れた。

それが私に向けられたものではないと分かっていても、耐えられなかった。背中を向けて走り出した。雨が顔に叩きつけてきて、足元も滑りそうだったけど、とにかく家に帰らないといけないという気持ちだけで走った。

家に帰り着いて、ドアを閉めてからもしばらく心臓の鼓動が止まらなかった。窓を閉め切り、カーテンを引いて、それでも外の雨音が耳に入ってきて、赤子の低いうなり声が頭から離れなかった。

あれは何だったんだろう?大雨の日にだけ現れる幻のようなものだったのか、それとも本当に存在していたのか。以来、雨の日はなるべく外に出ないようにしている。もしもう一度あれに出くわすことがあったら、次は逃げ切れない気がするからね。

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