ぶら下がる人

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その日は夏休みで、弟は友達と近所の山に探検に行ったんだ。といっても、街の端にある小さな雑木林みたいな場所で、昼間でもあんまり人がいないようなところだったらしい。弟は友達と一緒にそこらを歩き回って、虫取りをしたり、小さな沢で遊んだりしていた。

夕方近くになって、日も傾いてきた頃、弟たちはそろそろ帰ろうと雑木林を下っていた。その途中で弟は、ふと「違和感」を感じたんだと言う。前を歩く友達の影が妙に長い。その影が地面に沿って伸びているんじゃなくて、空中に浮かんでいるように見えたって。

気になって見上げた瞬間、弟は息を呑んだ。

木の枝にぶら下がっている「何か」が見えたと言うんだ。人の形をしていたけど、顔や服は全然はっきりしなかった。ただ、揺れているのが分かったらしい。その揺れ方も風のせいじゃなく、誰かが意図的に動かしているみたいに見えたって。

弟は一瞬、そこに目を奪われたけど、すぐに友達を呼んで「あれ見える?」って聞いた。けれど、友達は「あれって何?」ときょとんとして、全然気づいていない様子だった。

その時、弟の背中に冷たい感覚が走った。木の方から「こっちに来い」って囁くような声が聞こえたんだって。けど、その声ははっきり言葉になっていないようで、ただ「来い」と繰り返しているような感覚だったらしい。

弟は怖くなって、その場から友達を引っ張るようにして走り出した。その後、林の外に出るまで振り返らずに走ったらしい。家に帰ってきたときには真っ青で、普段は落ち着いた性格の弟が珍しく震えてた。

あの時のことは、それっきり話題にしなくなったけど、たまに「あれは本当に見間違いだったのかな」って言うことがある。けどね、弟の話を聞いてからというもの、その雑木林に近づこうという気には全くならなかったよ。あいつが見た「ぶら下がる人」は、何だったんだろうな。

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