モグラ人間

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あのときの出来事は、本当に現実だったのかと今でも思い返すたびに不思議な気持ちになります。確か、あれは夏の午後、友人と一緒に近くの公園を散歩していたときのことでした。日差しが強く、蝉の声がやかましいほど響いていました。

ベンチに腰掛けてしばらく話していると、地面がほんの少し動いたように見えたんです。最初は風で落ち葉が揺れただけだと思い、特に気にしませんでした。しかし、その場所をじっと見ていると、土がゆっくりと盛り上がり始めました。動物でもいるのかと興味半分で見ていると、信じられないものが現れたんです。

土を掻き分けて出てきたのは、モグラではなく「人」でした。初めは髪の毛が見え、それが徐々に頭、肩、そして上半身へと現れてきました。地面から這い出るように現れるその姿に、私は言葉を失いました。友人も唖然としていて、二人してただその場に立ち尽くすしかありませんでした。

その人影は、全身が土まみれで、顔の表情は全く見えませんでした。服を着ているようにも見えましたが、それも土にまみれていて色も分からない。まるで何か古いものが土から掘り起こされたような姿でした。

さらに不気味だったのは、その動きです。その人影は一切こちらを見ず、ただゆっくりと立ち上がり、ふらふらとどこかへ歩き出しました。足音もなく、まるで空気に浮いているかのような軽い足取りで去っていく姿は、どう見ても普通の人間ではありませんでした。

恐怖と好奇心が入り混じる中で、友人が「追いかける?」と小声で言いましたが、私は首を振りました。何か、あれを追いかけてはいけないという強い直感が働いたんです。そして、その直感に従ったのは正解だったと思います。

しばらくして、その人影は公園の奥にある木々の間に消えていきました。周囲には他の人もいましたが、誰もその奇妙な光景に気づいている様子はなく、私たちだけがそれを見たようでした。

あの「人」が何者だったのか、どうして地面から現れたのかは分かりません。ただ、あのときの異様な空気感と、土まみれの姿は、鮮明に記憶に残っています。あれが白昼夢だったのか、それとも現実の中に紛れ込んだ非現実だったのか……今でも不思議で仕方ありません。

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