お盆と女の子

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あれはお盆の頃で、夕方の涼しさを求めて、友人と二人で町をぶらぶらと歩いていました。日が沈みかけて、空が赤く染まる中、少しひんやりした風が吹き始めていました。

ふと、路地の先に小さな女の子が立っているのが見えました。歳は七つか八つくらいでしょうか。白いワンピースを着ていて、黒髪が肩まで伸びていました。その場にぽつんと立っていて、周囲に誰もいなかったので、少し心配になりました。

友人が「迷子かな?」と言い、私たちは女の子に声をかけることにしました。「どうしたの?おうちはどこ?」と尋ねると、女の子は顔を上げました。その顔が妙に青白くて、どこか寂しそうな目をしていたのを覚えています。彼女は小さな声で「お母さんを探してるの」と言いました。

私たちは「一緒に探そうか?」と言って、女の子と一緒に歩き始めました。しかし、何かがおかしいと感じたのはその直後でした。女の子が歩く足音が全く聞こえないんです。友人と顔を見合わせましたが、女の子は気づいていない様子で、ただ前を向いて歩き続けていました。

さらに奇妙だったのは、彼女が向かう先が明らかに人通りの少ない路地や、廃屋が並ぶような場所ばかりだったことです。「ここにお母さんがいるの?」と尋ねても、彼女は首を横に振るだけで何も答えませんでした。

やがて、古いお地蔵様が並ぶ小さな広場に出ました。そこに着いた途端、女の子が立ち止まり、振り返りました。その瞬間、彼女の表情が何とも言えない悲しみに満ちたものに変わりました。そして、ただ一言、「ありがとう」と言い残して、彼女はふっとその場から消えてしまったんです。

あまりにも突然の出来事に、私も友人も声が出ませんでした。ただ、その場に立ち尽くしていました。地蔵の一つの前には、白いワンピースの裾のような布切れが風に揺れているのが見えました。

後から地元の人に聞いた話では、あの場所で昔、若い母親が子どもを連れて失踪し、行方が分からなくなったという噂があったそうです。それが本当かどうかは分かりませんが、あの女の子の悲しそうな目と「ありがとう」という声は、今でも耳に残っています。

お盆の頃になると、あの夕方の出来事を思い出します。彼女が今、どこかで安らかに過ごしていることを願うばかりです。

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