追い払う

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祖父の家に友人を招いたあの日は、忘れられない出来事がありました。祖父の家は山あいの静かな村にあって、古い木造の一軒家でした。私が小さい頃から遊びに行っていた場所で、のどかな風景が広がる、どこか時間が止まったような場所でした。

その日は夏休みで、友人と「少し田舎を楽しもう」と軽い気持ちで遊びに来たんです。到着してから祖父が庭の手入れをしているのを手伝ったり、近くの川で涼んだりして過ごしました。昼間は特に変わったこともなく、むしろ穏やかで楽しい時間でした。

しかし、夜になってから雰囲気が一変しました。夕食を済ませた後、祖父がぽつりと「今夜は少し騒がしいかもしれないが、気にしないで寝なさい」と言ったんです。特に気に留めることもなく布団に入りましたが、深夜、妙な音で目が覚めました。

その音は、家の廊下を何かがゆっくりと這うような音でした。「ザッ、ザッ」と木の床を何か重いものが擦る音が一定の間隔で続いていました。最初は風の音か、祖父が起き出したのだろうと思ったんですが、耳を澄ませると、音は廊下の先から近づいてきているのが分かりました。

友人も目を覚ましたのか、小さな声で「今の音、何?」と聞いてきました。私も訳が分からず、「分からないけど、とりあえず静かにして」と答えるのが精一杯でした。そのとき、ふすまの向こうに気配を感じたんです。音がぴたりと止まり、何かがふすま越しにこちらを見ているような気がしました。

動けない私たちをよそに、ふすまが少しずつ開き始めました。外は真っ暗で何も見えないはずなのに、ふすまの隙間から覗く「目」のようなものがはっきりと分かりました。それは普通の目ではなく、大きくて丸い、動物のような目でした。

思わず息を呑んだ瞬間、隣の部屋で寝ていた祖父の声が響きました。「ここはお前の来る場所じゃない!帰れ!」と、普段の穏やかな口調からは想像もつかない大声でした。その声が響いた途端、ふすまが勢いよく閉まり、音も気配も消えました。

翌朝、祖父に尋ねると、彼は笑って「この家には昔から変なものが来ることがある。でも、追い払えば大丈夫だ」と言うだけで、詳しくは教えてくれませんでした。祖父の家にはそれ以来行っていませんが、あのとき見た目と音は、今でも鮮明に覚えています。あれが何だったのか、祖父は何を知っていたのか、それは今も謎のままです。

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