転校して間もない頃、まだ学校やクラスに馴染めずにいた私が、ある日ふと、学校の裏山に入ったのが始まりでした。そこは遊び場というよりも、地元の人からは「入らないほうがいい」とされるような場所だったんです。草木が鬱蒼としていて、昼間でも薄暗く、妙に静かでした。
その日は何かに導かれるような気持ちで奥へ奥へと進んでしまったんです。理由なんて特になく、ただ何かを見つけたかったのかもしれません。少し歩くと、小さな石の祠が見えてきました。苔むしていて、人が手入れしている様子はありませんでした。でも、その祠の前に立った瞬間、背筋がゾッとする感覚がしたんです。気温が下がったような、空気が重くなるような、そんな感覚でした。
その場から離れようと振り返ったとき、後ろに人影が見えたんです。年齢も性別も分からないような、ぼんやりとした輪郭で、こちらをじっと見ているようでした。声を出そうとしたのに、何故か喉が塞がれるようで声が出ません。動こうとしても、足が地面に縫い付けられたように動かない。
しばらくして、その影が近づいてきました。でも、どんなに近づいても顔がはっきり見えないんです。影のような存在が目の前まで来たとき、不意に頭の中に「ここはお前の来る場所じゃない」という声が響きました。口を動かしているのではなく、直接心の中に響いてくる感じでした。
気づけば、私は裏山の入口に立っていました。どうやってそこまで戻ったのか全く記憶がないんです。ただ、山から遠ざかる足音だけが耳に残っていて、振り返ることもできませんでした。
あの日のことは、今でも夢だったのか現実だったのか分かりません。でも、あの山には二度と近づく気にはなれませんでした。そして、あの声の主が誰だったのか、あるいは何だったのかも、未だに分からないままです。
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