怖い映画

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あの夏のある晩、私たちは誰かの提案で、一緒に怖い映画を見ることになりました。場所は啓介の家。彼の家は広くて、リビングには大きなテレビがあり、夜中でも家族に気兼ねなく集まれる場所でした。蒸し暑い夜でしたが、エアコンの冷たい風と缶ジュースを手に、私たちは妙に高揚していました。

映画は、当時話題になっていたホラー映画で、幽霊が出てくる典型的な内容だったはずです。私はあまり怖がるほうではなかったのですが、啓介や歩夢が「絶対に怖い」と騒いでいたのを覚えています。

上映が始まると、部屋の中は次第に静かになり、映画の音だけが響き渡りました。最初は皆笑いながら見ていましたが、次第に冗談を言う余裕もなくなり、スクリーンに釘付けになりました。

映画のクライマックス、幽霊が画面に突然現れるシーンで、慎也が思い切り叫び声を上げました。その声に驚いて私たちも飛び上がり、リビングは一瞬パニック状態になりました。でも、その叫び声がどこか普通ではない響きだったことに、全員が気づいていました。

「慎也、大丈夫か?」啓介が声をかけましたが、慎也は黙ったまま、テレビの画面をじっと見つめていました。映画のシーンはすでに進んでいたのですが、彼の目はその場面から離れないようでした。

「どうした?」と誰かが聞いたその時、慎也がぽつりとこう言ったんです。

「今の、映像じゃなかった」

私たちは顔を見合わせました。「何言ってるんだ?」と啓介が笑い飛ばそうとしましたが、慎也の表情は真剣でした。

「幽霊が現れるシーンで、画面の隅に……女がいた。髪が長くて、白い服を着てた。明らかに映像じゃなかったんだよ。だって、動いてたんだ」

その言葉を聞いて、空気が一変しました。誰も何も言い返せず、リビングが妙な静けさに包まれました。その後、全員で映画を巻き戻して慎也の言うシーンを確認しましたが、もちろんそこには何も映っていませんでした。

その場はそれで終わりましたが、私たちはなんとなくぎこちない雰囲気のまま解散しました。それから数日後、啓介の家で奇妙なことが起こりました。夜中、誰もいないリビングからテレビの音が聞こえたそうです。家族が様子を見に行くと、テレビは消えており、リモコンはテーブルの上に置かれたままだったといいます。それ以来、啓介の家で映画を見ようという話は二度と出ませんでした。

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