それは、梅雨の夜でした。外は土砂降りの雨で、家中が雨音に包まれていました。私は部屋で読書をしていたのですが、ふと耳に違和感を覚えました。
雨音に混じって、家の中から「ぺた、ぺた」という足音のような音が聞こえてきたのです。最初は、家族の誰かが裸足で歩いているのだろうと思いました。でも、時計を見ると夜中の2時を回っていて、みんな寝ているはずでした。
私は音のする廊下に出ましたが、そこには誰もいません。ただ、足音だけが続いていました。「ぺた、ぺた」と、まるで濡れた足が床を踏む音のように。音は私の部屋の方へ戻っていきました。
おそるおそる部屋に戻ると――そこには何もありませんでした。けれども、畳の上に小さな水たまりがいくつもできていたのです。雨で濡れた足が歩いたような跡が、部屋中に残っていました。
その夜、窓はしっかりと閉まっていましたし、誰も家に入ってくるはずがありませんでした。それなのに、翌朝になっても、畳の跡は薄っすらと乾ききらずに残っていました。
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