夏の終わり、久しぶりに村に戻った。俺は子供の頃からよく遊んだ川に向かった。川の水は相変わらず冷たくて澄んでいた。
川を歩いていると、水底に緑色の苔が生えているのが見えた。それはまるで絨毯みたいに広がっていて、妙にきれいだった。ふと、苔に触れてみようかと思ったけど、昔、村の大人たちから「触るな」と言われていたのを思い出した。
まあ、ただの苔だろうと思って、水に手を入れた。触れると、苔は冷たくて柔らかかった。でも、触れた瞬間、なんだか気味が悪くなって、すぐに手を引っ込めた。
その日の夜、夢を見た。川の底に引き込まれていく夢だった。苔が俺を包み込んで、どんどん深く沈んでいった。目が覚めた時、全身が冷や汗でびっしょりだった。
次の日、村を出る時に、ふと川を見返した。苔は相変わらずきれいに輝いていたけど、もう触れる気にはならなかった。あの苔は、ただの苔じゃないのかもしれない。そう思いながら、俺は静かに村を後にした。
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