村田が廃神社に行くと言い出したのは、暑さのせいでみんながだらけていた午後のことだった。「近所にあるあの古い神社、行ったことないだろ?」村田がそう言い出した時、私たちは少しざわついた。
その神社は、昔から「近づくな」と言われていた場所だった。参道は草ぼうぼうで、鳥居は半分倒れかけていて、何より地元では「何かがいる」と噂されていた場所だった。でも村田は、そんな話を全く気にしない様子だった。「面白いものが見つかるかもしれない」と言い残し、一人で神社に向かって行った。
夕方になって村田が戻ってきた時、手には小さな人形を持っていた。それは、木製で着物を着た子どもの形をしていた。色褪せた布地に埃がこびりついていて、明らかに長い間放置されていたものだった。しかし、妙に新しい目だけが奇妙な光を放っているように見えた。
「これ、神社の奥で見つけたんだ。すごいだろ?」
村田は得意げに人形を見せてきた。私たちは不気味さを感じながらも、「そんなもの持って帰るなよ」と注意したが、彼は笑って聞き流した。
それからだった。村田の様子がおかしくなったのは。最初は「夜中に誰かが部屋を覗いている気がする」とか、「人形の位置が勝手に変わる」といった、軽い冗談のように思えた。しかし、日を追うごとに村田の顔色は悪くなり、学校ではぼんやりとしていることが増えた。
ある日、彼がぽつりと漏らした言葉が今でも忘れられない。
「夜になると、あの人形が動くんだ。俺をどこかに連れて行こうとしてるみたいで……。」
私たちは彼を心配し、もう一度神社に行って人形を戻すべきだと言った。しかし、村田は「それは俺がやる」と一人で行くことを主張した。そして、その夜、村田は人形を持って再び廃神社へ向かった。それが彼を見た最後だった。
翌日、村田の家族は警察に捜索を依頼したが、彼の行方は分からなかった。ただ、廃神社の奥で、あの人形だけが見つかったという。人形はまるで元の場所に戻っていたかのように、苔むした石の上に座っていたそうだ。
その後、神社の周りでは妙な噂が広がった。夜中に近づくと、誰かの足音がついてくるとか、草むらから小さな子どもの声が聞こえるとか。そして、今でもあの神社に入った人たちの間でこう言われている。
「奥には何も持ち帰るな。それはお前を呼び寄せる印だ。」
村田の声を聞いたという話も後を絶たない。誰もがその声を聞くと振り返ってしまうけれど、そこに人影を見た者はいないという。
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