揺れるブランコ

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それは、ある静かな夕暮れのことでした。みんなで少し遠くの山間の町を訪れて、ふと目に留まった小さな公園に立ち寄ったときのことです。公園といっても、遊具はさびついた滑り台と、古びたブランコがひとつあるだけの、小さな広場でした。

公園には誰もおらず、僕たちは「懐かしいね」と笑いながら、何となくその場に足を踏み入れました。夕陽が低く傾いていて、空気が少し冷たく感じられました。

ブランコは二つ並んでいましたが、その片方が、誰も座っていないのに静かに揺れていたんです。風もほとんどなかったので、自然に揺れているとは思えず、不思議に思いました。

「誰か遊んでたのかな?」と声をかけ合いながら、僕たちはブランコの近くに寄りました。揺れているブランコのそばに立つと、確かに少し冷たい空気が流れているような気がしました。

もう一方のブランコに座ってみようと誰かが言い出し、座った途端、隣の揺れていたブランコがピタリと止まったんです。そのとき、全員が妙な違和感を覚えました。それは言葉にできないような感覚で、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、そんな感じでした。

「ここ、なんだか変だね」と誰かがつぶやき、僕たちはその場を離れることにしました。公園を出る直前、ふと振り返ると、またそのブランコが静かに揺れていました。まるで、「戻ってきて」とでも言いたげに。

宿に戻る途中で、地元の人にその公園の話をすると、「あそこね、昔子どもが事故に遭った場所なんだよ」と聞かされました。どうやら、あのブランコで遊んでいた子どもが、道に飛び出して車に轢かれてしまったそうです。それ以来、あの公園にはほとんど人が来なくなったとか。

あのとき感じた胸の締め付けられるような感覚は、もしかしたら、残された何かが僕たちに伝えようとしていたのかもしれません。それが何なのか、真意を知ることはできませんが、あのブランコは、今でもきっと同じように揺れている気がします。

思い出すたびに、あの夕焼けの中で揺れるブランコの光景が目に浮かびます。そして、不思議と少しだけ悲しい気持ちになるんです。

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