それは、みんなで雪国の温泉旅館に泊まりに行ったときのことでした。到着した日は一面の銀世界で、誰もがその美しさに感動していました。雪合戦をしたり、温泉に浸かったりと、和やかな時間を過ごしていたんです。
二日目の夜、みんなで旅館の近くを散歩しようという話になり、外に出ました。雪がしんしんと降り続ける中、ランタンを持って静かな山道を歩いていました。空気が澄んでいて、歩く音と息の白さがよくわかる、そんな夜でした。
道中、誰かが「あれ、足跡があるぞ」と言ったんです。雪が降り続いているのに、明らかに新しい足跡が一列に続いていました。靴の形を見る限り、人間のもののようでしたが、不思議だったのは、それが私たちの歩いている道ではなく、すぐ脇の深い雪の中に続いていることです。
「誰か先に歩いてたんじゃないか?」という話になり、みんなで足跡をたどってみることにしました。雪が膝まで積もっている場所を進んでいくのは大変でしたが、足跡はまっすぐに山の中へと続いていました。
そのうち、誰かが「これ、歩き方がおかしい」と言い出しました。確かに足跡の間隔が広すぎて、人が普通に歩いた形には見えない。まるで、飛ぶように進んでいるような不自然さがありました。
さらに進むと、足跡は突然途切れていました。周囲を見回しても、降り積もる雪の中に他の痕跡はありません。まるで、その場から消えたかのように見えたんです。
「戻ろう」と言い出したのは誰だったでしょうか。とにかく全員が不安な気持ちになり、来た道を引き返すことにしました。しかし、戻る途中で奇妙なことに気づきました。私たちの後を追うように、別の足跡が増えていたんです。
振り返るたびに、数歩分だけ足跡が増えている。それが誰のものでもなく、さっき見た不自然な間隔の足跡と同じものでした。けれど、周りには誰の姿も見えません。
最終的に、半ばパニック状態で旅館に戻りました。足跡の話を宿の人にすると、「そんなことあるわけない」と笑い飛ばされましたが、翌朝、外を見ると、私たちがたどった道の先に新しい足跡が伸びていました。それも、また途中で途切れていたんです。
今でも、あの夜のことを考えると不思議で仕方ありません。あの足跡を残したのは誰だったのか。それとも、何かだったのか――その正体を知ることは永遠にできない気がします。
雪国の白い静けさの中には、人が踏み込んではいけない領域があるのかもしれませんね。
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