帰省の夜

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地元は久しぶりだったし、せっかくの静かな夜だったので、「ちょっと歩いてみよう」と友人と二人で家を出たんですよね。町は懐かしい雰囲気そのままで、道端に咲いている花や、聞き慣れた虫の音が妙に心地よかった。

あの夜、私たちは近くの小さな川沿いの道を歩いていました。月明かりが川面に反射していて、それが妙に幻想的だったのを覚えています。少し風が強くて、川沿いの柳の木が揺れる音が静かに響いていました。

そのとき、川の向こう岸に小さな人影が見えました。最初は釣りをしている人かと思ったんですけど、妙なことに、その影は全然動かないんです。こちらを向いて立っているように見えるのに、微動だにしない。

「なんだろうね、あれ?」とお互いに話しながら、少し立ち止まって見ていると、風が吹くたびに人影が揺れるように見えました。まるで木の枝に引っかかった布か何かが風で動いているような感じです。

でも、次の瞬間、その影がこちらに手を振るように動いたんです。それがあまりにも自然な動きだったので、「やっぱり人かな?」と思ったけれど、暗さのせいか顔や体の輪郭がどうしてもはっきりしない。

そのとき、川の上流から一陣の風が吹き抜けてきました。その風が冷たくて、妙に湿っていて、なんだか背筋がぞわっとしたんです。そして、その風が止んだ瞬間、向こう岸の人影が消えていました。

「誰かいたよね?」とお互いに確認し合いましたが、もうそこには何もいない。ただ川のせせらぎと、柳の葉が擦れる音だけが響いていました。怖くなってその場を離れ、早足で家に戻りました。

帰ってからもあの人影のことが気になり、翌日、川沿いを散歩したときに再びその場所を見に行きました。でも、そこには人が立てるような場所もなく、ただ川岸が草むらに覆われているだけでした。

今でもあの夜のことを思い出すと、少し背筋が寒くなります。一体、あの影は何だったのか。そして、あの冷たい風が吹いた瞬間、向こう岸で何が起こっていたのか――あれが現実だったのかどうか、確かめる術はありません。でも、あのときの感覚だけは今でも鮮明に覚えていますよね。

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