俺の村には、昔から伝わる奇妙な話がある。村を流れる川には、見えない神様が棲んでいて、その川で遊ぶと祟りがあるっていうんだ。俺もガキの頃からその話を何度も聞かされてきた。でも正直、そんな話、信じちゃいなかった。川は単なる川でしかなく、俺たちガキにとっては絶好の遊び場だった。
ある夏の日、俺と友達のユウスケとマサトは、誰にも言わずに川で泳ぐことにした。大人たちが怖がるのを笑いながら、俺たちは川に飛び込んだ。水は冷たくて気持ちよかった。俺たちは夢中で泳ぎ、川底に足をつけたり、互いに水をかけ合ったりして遊んだ。
しばらくすると、ユウスケが突然「なんか、足に触った」と言い出した。俺たちは笑って「魚だろ」って冗談を飛ばしたけど、ユウスケの顔は真剣だった。「いや、違うんだ。冷たくて…手みたいだった」と。俺たちは一瞬で背筋が凍った。だが、俺たちはまだ、怖がりたくなかったんだ。
その時、川の流れが急に強くなった。俺たちは流されまいと必死で泳いだが、どんどん川の中央に引き寄せられていく。パニックになった俺たちは、岸に戻ろうとするが、どうしても体が前に進まない。まるで川そのものが俺たちを捕まえて離さないかのようだった。
突然、俺の足に何かが絡みついた。水草かと思って引き剥がそうとしたが、それは冷たくて、まるで生きているかのように俺の足を引っ張ってきた。次の瞬間、川底から何かが俺を見上げているのに気づいた。青白い顔、無表情な目、そして濡れた髪が揺れていた。
「助けて!」俺は必死で叫んだが、声は水にかき消された。俺の視界がぼやけ、意識が遠のいていく。川底の何かが俺を深く引きずり込もうとしていた。恐怖で体が震え、力が抜けていった。
気づいた時、俺は岸に打ち上げられていた。俺一人だけが生きていた。ユウスケもマサトも、二度と姿を見せることはなかった。大人たちは俺を責めることなく、ただ静かに祈りを捧げた。あの日、俺たちが目にしたものは、村の神様の怒りだったのだろう。
それ以来、俺は二度とその川に近づかなくなった。あの冷たい手の感触が今でも足に残っている。村の言い伝えがただの迷信じゃなかったことを、俺はこの身をもって知ったんだ。
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