体育館の鍵

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あれは小学5年生のときでした。夏休み前の7月の終わり、学校では文化祭の準備が始まっていました。僕たちのクラスは劇を発表することになり、体育館でのリハーサルが放課後に行われていました。

リハーサルは順調に進んでいましたが、道具の片付けや舞台の設営が終わった頃にはすっかり日が暮れていました。最後にみんなで体育館を掃除して帰ろうということになり、雑巾がけやゴミ拾いをしていました。

そのとき、クラスの何人かが「お前、体育館に一人で残れるか?」と僕に冗談半分で言ってきたんです。僕は怖がりだったので、「やめろよ」と笑いながら断りましたが、彼らは悪ノリし始めました。

気づいたときには、僕は体育館の中に閉じ込められていました。外から鍵をかけられたらしく、扉を引いても開きません。体育館は真っ暗で、窓から漏れる薄い夕日だけが頼りでした。外で笑い声が聞こえるのを耳にしながら、僕は扉を叩き、「早く開けてくれ!」と叫びました。

しかし、何分経っても誰も開けに来ません。次第に体育館の中は静まり返り、遠くで何かが軋むような音が聞こえるようになりました。あの独特の体育館の反響音が、不気味さを増幅させていました。

それから、妙な感覚がしました。誰かが体育館の隅で動いているような気配を感じたんです。最初は気のせいだと思いましたが、その感覚はどんどん強くなり、明らかに「誰かがいる」と思えるほどになりました。

「誰かいるのか?」と声を出しましたが、返事はありません。ただ、足音のような音が遠くからこちらに近づいてくるように感じられました。視線を感じるのに、どこを見ても誰もいない。それでも、確かに「見られている」と思いました。

そのとき、突然何かが倒れるような音がしました。恐る恐る音のした方を見ると、ステージの上に置いていた舞台用の椅子がひとつ倒れていました。でも、倒れる瞬間を見ていたわけではなく、「気づいたら倒れていた」という感覚でした。

パニックになりそうになりながら扉を叩き続けると、ようやく外からクラスメイトの一人が鍵を開けてくれました。僕が飛び出すと、彼は笑いながら「悪かったな、からかいすぎた」と言いましたが、そのときの僕は怒る余裕もなく、とにかく早くその場を離れたかった。

しかし、その話には後日談があります。その日、僕を閉じ込めた友人たちは、誰も鍵を閉めた覚えがないと言うんです。体育館の鍵は教師しか持っておらず、クラスメイトが勝手に持ち出せるはずがない。じゃあ、あのとき鍵をかけたのは誰だったのか――それは、今でも分からないままです。

あの体験以来、体育館の薄暗い空間は少し苦手になりました。何が本当だったのか、何がただの思い込みだったのか。それを確かめる術はありませんが、あの日感じた「誰かの気配」だけは、今でも鮮明に覚えています。

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