「ねえ、あの空き家知ってる?」
学校帰り、ミカがそんな話を振ってきた。
「空き家?ああ、あの古い家ね。でも、何かあるわけじゃないでしょ」
私は特に興味もなく答えた。
「でもね、聞いたことない?あの家に入ったら、出られなくなるって噂」
ミカが少し興奮気味に言う。
「ただの噂でしょ。誰かが怖がらせようとして作った話じゃない?」
私は軽く受け流そうとしたけど、ミカは真剣だった。
「でもさ、誰もその後のことを話してないんだよね…誰も出てこなかったってこと?」
彼女の声には、不安が混じっていた。
「それなら、私たちが確認してみる?どうせ何もないんだし」
私は冗談半分で言ったつもりだった。
「行こうよ、今から」
ミカは真顔で言った。
放課後の空き家は、ただの古びた家だった。玄関のドアは軋んだ音を立てて開き、中はホコリっぽい匂いがした。
「ほら、何もないでしょ」
私は笑いながら言った。
「そうだね…でも、ちょっと気味が悪いね」
ミカも笑ったが、どこか落ち着かない様子だった。
家の中を一通り見て回ったが、特に変わったものはなかった。壁には古い写真がかかっていて、昔の家族が写っている。
「なんか普通だね。帰ろうか」
私は言った。
「うん…でも、ちょっと待って。あれ、何?」
ミカが指さした先には、小さな扉があった。
「こんな扉、さっきあったっけ?」
私は首をかしげたが、好奇心が勝って扉を開けた。
中は暗く、細い階段が下へ続いていた。
「降りてみようよ」
ミカが提案した。
「え、やめとこうよ。何か変な感じがする」
私は少し怖くなっていた。
「大丈夫だって。ちょっとだけ見て、すぐ戻ろう」
ミカはそう言って階段を降り始めた。
私も仕方なくついて行った。階段を降りると、狭い部屋が広がっていた。部屋の中央には、何かが置かれていた。
「これ…何だろう?」
ミカが近づいていく。
私は不安になり、その場を離れたくて仕方なかった。「もう帰ろうよ」
そう言った瞬間、部屋の扉がバタンと閉まった。
「何これ!?」
ミカが叫んだ。
私は必死に扉を開けようとしたが、びくともしなかった。「ミカ、助けて!」
私はパニックになった。
「どうしよう…どうしよう…」
ミカも怯えていた。
その時、部屋の中の何かが動いた。ミカがその方向に振り返り、青ざめた顔で私を見た。
「ここ…私たち、閉じ込められたんだね…」
「何言ってるの!?どうにかしてここから出ないと!」
私は叫んだが、次の瞬間、ミカは微笑みながらこう言った。
「もう、出られないよ。だって…ここはずっと昔から…」
その言葉が終わる前に、部屋の灯りがふっと消えた。そして、静寂が訪れた。
私は冷たい汗をかきながら、必死に扉を叩き続けたが、何も起こらなかった。振り返ると、ミカの姿も消えていた。
その後、私はなんとか自力で扉を開けることができたが、ミカはどこにも見当たらなかった。外に出た私は、あの家がすでに廃墟になっていたことに気づいた。
そして、ミカの行方は誰にもわからないままだった。
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