虎と猫

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私の祖父は、昔から「寅の年は猫を迎えるべきではない」と言っていた。幼い頃の私はその意味がわからず、ただ祖父の迷信のようなものだと聞き流していたが、実家に戻ったある冬の日、祖父がその話をした理由を知ることになる。

その年は寅年だった。久しぶりに帰省した私は、田舎の静かな家でゆっくり過ごすつもりだった。ある夜、近所の道端で小さな猫を見つけた。真っ白な毛並みに、まるで煤けたような黒い斑点がある不思議な猫だった。寒さに震えている姿があまりに哀れで、私は連れ帰ることにした。

祖父にその猫を見せると、驚いたような顔をして「その猫をここに置くな」と厳しい声で言った。理由を尋ねても、「寅と猫は相容れない」としか答えない。なんとも腑に落ちない話だったが、家の外に放り出す気にはなれず、私はそのまま自分の部屋で猫を飼うことにした。

猫はとても静かで、夜になるとどこかに隠れるのか、姿が見えなくなることがあった。初めのうちは気にしていなかったが、ある夜、部屋の窓に映る影を見て妙な違和感を覚えた。暗がりの中、猫が私の机の上でじっとこちらを見ている。その目が月光を反射し、異様に光っていた。

その後、私は奇妙な夢を見るようになった。夢の中で私は山道を歩いていた。前方には大きな虎がいて、その背後に例の猫がいる。虎は振り返ると、こちらに向かって低い唸り声を上げた。猫が虎の背中に乗ると、二匹は一体となって私を追いかけてきた。

目が覚めたとき、心臓が異様なほど早く鼓動していた。部屋の隅を見ると、猫がこちらを見つめていた。月光のせいか、白い毛並みがやけに鮮やかに見えたが、その目には虎のような威圧感があった。

翌日、祖父に夢の話をすると、彼は険しい表情をした。

「寅は猫を受け入れない。猫は寅の小さな影のようなものだ。お前が見たのは、虎に取り憑かれた猫だろう」

その言葉に私は震えた。祖父は猫をすぐに捨てるように言ったが、どうしてもそれができなかった。しかし、その夜、猫が再び部屋に現れたとき、何かが変わっていた。

猫の背中に、虎の模様が浮かび上がっていたのだ。

私は恐怖に駆られ、猫を外に追い出した。猫は抵抗もせず、静かに去っていったが、その目には深い怒りが宿っているように感じた。それから、猫の姿を見ることはなかったが、家の周りには虎のような大きな足跡が残るようになった。

祖父はその後、「寅の年に猫を迎えることは、影を呼び寄せることだ」と教えてくれた。それがどういう意味なのか、今でも正確にはわからない。ただ、夜中に背後を振り向くのが怖くなったのは確かだ。

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