呼ぶからね

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田舎の古い家には、不思議なことがいくつもあった。特に、居間の片隅に置かれた三つの座布団が妙だった。誰もそこに座ることはないし、祖母に聞いても「あれはそのままにしておきなさい」と言うだけだった。

ある日、僕はふと座布団をじっと見つめていた。古びた布地に模様が浮かんでいる。梅の花のような形だが、よく見ると梅ではない。何か知らない花の形だった。触ろうと手を伸ばしたが、なぜか止まってしまった。指先がじわじわと熱くなるような感覚がしたのだ。

その夜、僕は夢を見た。居間の座布団の上に三人の影が座っている夢だ。顔は見えない。ただ、じっとこちらを見ているような気がした。朝起きると、妙に手の平が熱かった。

次の日、どうしても気になり、座布団を一つだけ裏返してみた。裏には何もないと思っていたが、うっすらと赤い手形が残っていた。それも、まるで火傷のような跡で。

怖くなって祖母に話したが、「座布団を元に戻しなさい」とだけ言われた。そして、声を落としてこう言った。

「三つあるのは意味があるんだよ。一つでもずれると…呼ぶからね。」

僕は急いで座布団を元に戻した。それ以来、触れることはなかったが、たまに視線を感じるようになった。

そして、ある日。朝起きると座布団が一つ、僕の部屋の床に置かれていた。

誰も触っていないはずなのに。

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