夏休み、友人たちと心霊スポット巡りをすることになった。メンバーは僕、リョウ、アキラ、そしてナオコの4人。地元で有名な「旧トンネル」を目指し、夜中に車で向かった。
そのトンネルはすでに使われていない廃道で、薄暗い山道の奥にひっそりと口を開いている。入口には鉄製の柵があったが、地元の噂では、そこを越えて進むと「見てはいけないものを見る」と言われていた。
「絶対面白いって!」とリョウがノリノリで柵を乗り越え、僕たちも仕方なく後に続いた。懐中電灯を持ちながら、ひんやりとした空気が漂うトンネルの中に足を踏み入れる。
中は湿気でじめじめしていて、壁には黒いシミが無数に広がっていた。懐中電灯の光が頼りない。奥に進むほど、僕たちは口数が減り、足音だけが響くようになった。
突然、ナオコが「ねえ、聞こえる?」と言い出した。
「何が?」とアキラが聞くと、ナオコはしばらく耳を澄ませていた。そして小さな声で言った。
「足音、増えてない?」
僕たちは思わず立ち止まった。確かに、4人分の足音以外に、もうひとつ小さな音が混じっている気がする。それは僕たちの後ろからついてくるように聞こえた。
「気のせいだろ」とリョウが笑い飛ばそうとしたが、その声も震えていた。振り返っても、トンネルの暗闇が広がるだけで何も見えない。
それでも気味が悪くなり、僕たちは引き返すことにした。トンネルの出口が見えたとき、アキラが小声で「待って」と言った。
「後ろ、誰かいないか?」
僕たちは恐る恐る振り返った。
そこには誰もいなかった。ただ、懐中電灯の光が後方の壁に当たると、妙なことに気づいた。
壁に映る影が、僕たち4人分ではなく、5つあった。
「なんだよ、これ…」
影のひとつは明らかにおかしかった。形が人間ではなく、まるで体をくねらせながら歪んでいる。しかもその影だけが、じわじわと僕たちに近づいてきているように見えた。
「走れ!」と誰かが叫び、僕たちは一斉に出口に向かって走った。振り返る余裕もなく、ひたすら光の差す外へ飛び出した。
外に出て、振り返ると、トンネルはただ暗く静まり返っていた。さっきの影が何だったのか、誰も口にしなかった。ただ、ナオコが一言つぶやいた。
「…最後に、ついてきたの、誰?」
僕たちは4人だったはずだ。けれど、トンネルを出るとき、確かに「誰か」が僕たちのすぐ後ろにいた。そんな気配がした。
それ以来、僕たちは心霊スポット巡りをやめた。だけど時々、夜道を歩いていると、トンネルで感じたあの足音が耳元で蘇る。ゆっくり、じわじわと近づいてくる感覚とともに。
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