小学生のころ、僕たちの遊び場は学校の裏山だった。木々が生い茂り、ちょっとした冒険気分が味わえる場所で、授業が終わるとランドセルを放り投げ、夢中で遊びに行った。
その裏山の中腹には「見つけ石」と呼ばれる奇妙なものがあった。苔むした大きな石で、子どもたちの間では「かくれんぼの神様がいる」と言われていた。誰かがかくれんぼをしているときに「見つけ石」に触れたら、隠れている人が絶対に見つかる、と。
ある日、僕たちは放課後の山でかくれんぼをしていた。その日はクラスの「怖い話好き」で有名なヤスが仕切っていて、「見つけ石の近くでやると絶対に盛り上がる」と言い出した。僕たちも面白半分で賛成し、「鬼」が石に触れたら負け、というルールを付けて始めた。
最初はみんな笑いながら遊んでいた。けれど、次第に奇妙なことが起き始めた。石に触れた途端に隠れている仲間の居場所が分かるのだ。しかも、なぜか目ではなく頭の中に映るような感覚で。
僕が鬼になったときも同じだった。石に触れると、木の陰に縮こまっているケンや、倒木の裏に隠れているミキの姿が、まるで映画の一場面のように脳裏に浮かんだ。普段なら絶対に見つからない場所なのに、迷うことなく見つけることができた。
「これ、すごいよな!」と、ヤスが興奮して言った。「やっぱりこの石、ただの石じゃないんだ!」
そのうち僕たちは、石に触れることが「面白い」から「気味が悪い」に変わっていった。特に、ミキが鬼になったときのことだ。
彼女は石に触れた途端、顔を真っ青にして「もうやめたい」と震えながら言った。僕たちが理由を聞くと、最初は黙っていたが、ついにポツリとこう言った。
「誰も隠れていない場所が見えた。でもそこに、知らない人が座ってたの…。」
僕たちは怖くなって、その日は遊びをやめた。それから数日間、誰も裏山には行かなかった。
けれども、ヤスだけは違った。彼はミキの話を全く信じず、一人で見つけ石の謎を解くと言い出した。そして、ある日放課後、一人で山に行った。
次の日、ヤスは学校に来なかった。先生からは「風邪で休み」と説明されたけれど、僕たちはなんとなく違うと感じていた。彼の家に電話をかけても応答がなく、誰も詳しいことを教えてくれなかった。
数週間後、ヤスは学校に戻ってきた。しかし、以前の明るい性格は影を潜め、どこか別人のようだった。そして、僕たちに言った。
「見つけ石、もう触らないほうがいい。見つけたら、向こうもこっちを見つけてくるから…」
ヤスが何を見たのかは、誰にも話さなかった。でもそれ以来、見つけ石はただの苔むした石に戻り、遊び場としても使われなくなった。
今でも時々思い出す。その石を触ったときの不思議な感覚と、ヤスの真っ白な顔。そして、「見つけたよ」という言葉が、僕たちを呼んでいるような気がするんだ。
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