おいでやす

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昔、うちの田舎に「おもんばあさん」っていう、ちょっと怖いおばあさんがおったんや。子供のころ、みんなで集まっては、あのばあさんの家の前を通るんが勇気試しみたいなもんやった。

「なあ、今日も行こか?」って、友達のヒロキが言い出したんや。ほんまは行きたないけど、みんなが行くって言うから、しゃあなしに一緒に行くことにした。

おもんばあさんの家は、古くてボロボロで、昼間でもなんか薄暗いんや。その家の前を通るだけで、背筋がゾクッとする。誰も住んでへんはずやのに、夜になると窓に明かりが灯ることがあったんや。それがまた、不気味やった。

「ほら、早よ行こや!」ヒロキが先頭に立って、どんどん進んでいく。俺らはついていくしかあらへんかった。

おもんばあさんの家の前に着いた時、急に風が吹いてきて、家の中から何かが動いたような気がしたんや。「おい、見てみい!何かおるやん!」誰かが叫んだ。みんな一斉に家の中を見たけど、何もおらんかった。

「気のせいやろ」と誰かが言ったけど、あの時、確かに動く影が見えたんや。それも人間ちゃう、もっとなんかおぞましいもんやった。

そしたら、家の扉がギギーッて音を立てて開いたんや。「なんやこれ…」誰もがその場で固まってもうた。扉の向こうからは、真っ暗な廊下が続いとったけど、その奥に赤い光がぼんやりと見えたんや。

「入ってみるか?」ヒロキが言うたけど、誰も動けんかった。それに、あの家に入ったら戻られへん気がして、俺は何とか言い訳を探そうとした。

でも、その時や。「おいでやす」って、低い声が聞こえたんや。まるで耳元で囁かれたみたいに、はっきりと。

その瞬間、全員がバッと走り出した。誰が何を言うたんかも覚えとらん。ただ、あの家からできるだけ早く遠ざかろうとして、全力で逃げたんや。

結局、誰もおもんばあさんの家には入らんかったし、あの声の主が誰やったんかも分からんままやった。でも、それ以来、誰もその家に近づかんようになったんや。

大人になった今でも、あの家のことを考えると背筋が寒くなる。あの日聞いた「おいでやす」って声が、今でも耳に残ってる気がするんや。

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