食品工場でのアルバイトは、淡々とした作業が多い。
ラインに流れる商品をチェックし、不良品を弾く。それが主な仕事だった。私は大学の授業が終わった後、夜勤に入ることが多かった。深夜の工場は独特の静けさがあり、機械音だけが響いている。
ある晩、廃棄品を集める担当になった。廃棄される商品は、包装が破れたり、印刷がずれたりしたもので、決して味には問題がない。箱に詰め、所定の倉庫へ運ぶだけの単純作業だ。
だが、その夜に運んだ廃棄品は、何かが違っていた。
倉庫の奥に運び込むと、段ボールの隙間から人の顔が見えた気がした。一瞬、ドキリとしたが、もちろんそんなはずはない。気のせいだろうと思い、そのまま作業を続けた。
翌日、社員の一人が話しかけてきた。
「昨日、廃棄チェックで何か変わったことなかった?」
何も思い当たらなかったので首を振った。すると彼は、少し顔を曇らせてこう続けた。
「倉庫に入れる前に確認するのがルールだけど、最近、勝手に開いてる段ボールがあるんだよ。中のものが減ってる時もある。君じゃないよね?」
もちろん違う。だが、その言葉に引っかかるものがあった。昨日見た顔のようなものは、あの開いた隙間から覗いていたのではないだろうか?
その晩、私は倉庫で妙な音を聞いた。
ゴトン、と何かが落ちる音。静まり返った工場では異様に響いた。倉庫に足を踏み入れると、いくつかの段ボールが崩れていた。その中身が散乱している。それだけなら、単なる事故だと思っただろう。
だが、一つの段ボールの中には、空っぽの包装材が詰まっていた。
なぜかぞっとした。商品がなくなっている。だが、問題はそれだけではない。
空になった包装材の一つに、手の跡のようなものが付いていた。それは白く、粉のような何かで形が浮き上がっている。おそらく、廃棄品に触れた者のものだ。
だが、廃棄品に触れる人間は、私以外にはいないはずだった。
その日以降、廃棄作業を担当することはなくなった。誰かが何かを食べていたのか、それとも……今となっては確かめようがない。
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